「いい子だ、彬。……愛してる」

 高ぶるままに愛を告げれば、水嶋の紅玉がわずかに伏せられた。
 水嶋には、雷翔の思いをないがしろにしていたという自覚がある。――それこそ、水嶋の思いが真面目に受け止めてもらえないのと同じように。
 それは堪え難いほどに辛くて悲しくて苦しいことだ。だから雷翔の愛情は歪んだ。耐えきれなくて心のどこかを病んだ。
 水嶋への思いを捨てれば狂わずにすんだろうけれど、雷翔は水嶋を諦めるという選択肢を持っていなかった。
 雷翔にとって水嶋は、日本に来てから初めてまともに話しかけてくれたクラスメートだ。拙い英語で声をかけてくれたとき、どれほど嬉しかったか、水嶋は本当には分かっていない。
 水嶋を諦めるということは、かつての喜びを置き去りにしてしまうことと同じだった。あのきらめく日々を捨ててしまうくらいなら、雷翔は喜んで狂う。
 自ら病むことを選んだ雷翔は、本来水嶋に責任を押し付けられないことを理解している。それでも水嶋のせいだというのは、水嶋に罪悪感を植え付けて、雷翔の存在をたとえ暗い影であっても水嶋の中に残すためだ。水嶋はあの男とそれ以外、という人のくくりしか持っていないから。
 自分はこんなに水嶋を愛しているのに、水嶋は雷翔をその他の人間としか見ていないなんてあんまりだろう。だから、水嶋は雷翔にひどいことをされて当然なのだ。

「うぁ、あ……っ、雷翔……っ」

 眉根を寄せながら律動を繰り返しているうちに、水嶋の喘ぎに甘みが出てきた。上体だけ起こして水嶋のものを見やると、そこはすっかり立ち上がっていた。
 雷翔は水嶋を見下すように笑う。

「ははっ……。無理矢理犯されて感じてんのかよ。とんだ変態だな、彬ちゃん」
「あっ、あ、んんっ……っ誰のせ、で、こんなっ……はァっ、んっ……」
「確かに俺が彬ちゃんをドエムの淫乱にしてやったけどよォ……。自業自得だろ? お前がちゃんと俺のこと受け止めてりゃ、俺はこんなふうにならなかったのに」
「……っ」

 初めて水嶋に暴力を振るってレイプしたときから言い続けていることを言ってやれば、水嶋は眉尻を下げて眼を逸らす。
 水嶋にきちんと罪悪感が植わっていることに満足した雷翔は、水嶋の身体を引き上げ自分と対面させる。

「――あ、あぁっ……!」
「深いの、好きだろ、彬」
「ん、や、ちがうっ……」
「違わねえだろ。だったらどうして乗っからせた途端に、うまそうに締めつけてくるんだよ?」
「ひあ、あっ……!」

 水嶋を突き上げながら、雷翔は三宮に視線を遣る。三宮は面白いものを見た、とでもいうふうに乱れる水嶋を見守っていた。その手は男の顎を捕らえて、雷翔と水嶋の性交から眼を逸らせないようにしている。

「万里」

 顔を赤くしてうろたえている男を捨て置き、雷翔は三宮を呼んで手招く。

「来いよ」
「だから主人に命令すんじゃねーよ。進藤さんはもういいのか?」
「進藤? ああ、そいつ。いいわけねーだろ。まだ退室させんなよ。万里だけこっち」

 雷翔は器用に三宮に向き直る。話している間にも自ら腰を振っている水嶋の双丘を割り開いて、三宮に結合部を見せつけた。

「万里のも入れちまえよ」
「な、雷翔っ……」
「――鬼畜だな」
「楽しそうな面ァしてよく言うぜ」
「雷翔、嫌だっ……無理……」
「はは、万里ちゃんのもデケエもんな。俺には劣るけど」
「てめえが規格外なんだよ化け物め」

 三宮はこちらに歩み寄りながら暴言を吐き捨てた。男の象徴のサイズで負けていることが気に食わないらしい。軽く笑うときつく睨まれた。

「劉、寝ろ。入れにくい」
「あー、はいよ」
「んっあ……やだ、嫌だ、雷翔っ……!」
「嫌じゃねーよ、淫乱。どうせもう血塗れなんだから、このうえ万里ちゃんのブツ突っ込まれたって変わらねーだろ」
「いや、だ……っ」
「強情だな、水嶋。好きでもない劉に無理矢理ヤられて感じてんだ、そんな変態ならすぐに気持ちよくなるんだろ?」
「ッ三宮……!」

 水嶋は背後に迫った三宮を肩越しに振り向いてねめつけた。三宮はすいと目を細め、意地悪く笑う。

「ご主人様、だろう、水嶋。――進藤さん」
「は、はいっ……」

 三宮が進藤を呼ばわると、水嶋の身体がぎくりと強張って、それで雷翔の猛りが締めつけられた。雷翔は水嶋をなだめるように彼の米神に唇を落とす。

「ちゃんと見ててやれよ。どうやら水嶋がこんな目に遭うのは、あんたのせいらしいからな」
「ちが――違う、政春……っ」
「……うっぜ……」

 低く呟くと、水嶋の肩が跳ねた。水嶋をはさんだ正面にいる三宮は、雷翔の碧眼を見てわずかに瞠目している。

「万里。さっさと突っ込んで口きけねえようにしちまえよ」
「雷翔っ」
「うるせえんだよ、淫乱。黙って種壺になってろ」

 雷翔は苛々しながら水嶋に吐き捨て、三宮を視線で促す。
 二、三度瞬きをしてから、三宮は水嶋の腰を押さえて無理矢理水嶋に入り込んだ。

「――ッひ、ぎ、うあ、あ、あっ……!!」

 気遣いなどいっさいなく、すでにいっぱいだった場所に押し入ってこられた水嶋は切れ切れに絶叫する。多くの人間を惹き付けてやまないボーカルの声とは思えないものだった。だがこれはこれで、高尚な趣味の人間が群がりそうではある。

「は……きっつ。さすがに彬ちゃん萎えちゃってんの」
「これで勃ててたら救いようねーだろ」
「救いようなくしてやるのも、楽しそうじゃねえ?」

 雷翔は心底そう思って三宮に同意を求めたが、彼は呆れたような顔で「好き者」と返してきただけだった。
 救いようがないほど特殊な性癖にして、自分以外では満足できないようにしてやりたいと、雷翔は常々思っている。自ら雷翔を求めてくるようになれは最高だが、現状の水嶋の無駄なプライドの高さでは望み薄だ。
 ――そう、『現状の』水嶋では。

「っあぐ、あ、雷翔、も……許し……っ」

 三宮に揺さぶられつつ、水嶋は懇願してきた。雷翔は水嶋の頭を撫でてやりながらも、優しさのない声で水嶋の耳朶に低く囁く。

「許してもらえると本気で思ってんのかよ、彬?」
「……っ」
「なァ、俺がなんで怒ってんのか、分かってる?」

 水嶋は首を横に振った。だろうな、と雷翔は呟く。分かっているなら、繰り返し進藤を庇ったりしないだろう。雷翔を怒らせれば怒らせるだけ苦痛を与えられると、水嶋は理解しているのだから。
 あるいはそれをおしても護りたいということか――。自分で考えたことに腹が立って、雷翔は乱暴な舌打ちをした。
 ふいに三宮が喉で笑ったかと思えば、水嶋の耳朶に唇を寄せた。

「――水嶋。進藤さん、俺がお前に突っ込んでるの見て、寂しそうにしてるぜ」
「んっ、あ……まさは、る」
「はッ。期待させるようなこと言うなよ万里ちゃん。どうせ彬のことなんか、進藤は見てねーだろ。万里が触ってんのが自分じゃねェからだろうが」
「だろうな。俺のことばっかり見てる。哀れなもんだな、水嶋」
「うる、せえっ……!」

 自分の哀れさはよくわかっているのか、水嶋は喘ぎの合間に反抗を言葉にした。

「駄目じゃん、進藤さん。俺じゃなくて水嶋を見てなきゃ」
「あ、も……申し訳ありません、ご主人様……」
「いや、だ……見な……っで、くれ、政春……っ」

 掠れた声での水嶋の哀願に進藤はたじろいだようだったが、進藤は一言謝っただけで三宮の命令のほうに従った。
 水嶋は何度も雷翔の名を呼んだ。恨み言なのか縋っているのかは、涙に濡れた声では判然としなかった。
 雷翔は泣く水嶋に、ほの暗く微笑んだ。

「……そのままずっと哀れでいて、俺と同じところまで落ちてきちまえよ、彬」
「うぁ、あっン……雷翔……っ?」
「そうしたら、お前を幸せにしてやれる」
「どういう――ッア、あうっ……んんっ」

 三宮が腰を引くのと入れ替わりに、雷翔は器用に水嶋を突き上げる。真意を訊ねようとした水嶋の口からあまやかな嬌声が零れた。
 水嶋の身体は繰り返し与えられる雷翔の暴行に順応力が高まりでもしたのか、激痛に萎えきっていた水嶋のものは芯を取り戻し始めていた。

「愛してる奴を幸せにしてやりたいのは、当然だろ? だから彬……壊れちまえよ」

 愛しさから紡ぎだした声は、思いのほか低くなった。
 進藤にこの情交を見せつけているのは、そうすれば水嶋の精神に負荷がかかるからだ。水嶋が勝手に壊れるのを待つ気は、雷翔にはない。
 いままでにもメンバーの目の前で犯したり、高尚なご趣味の中年の前で犯したりと、水嶋の心を苦しめることはしてきた。水嶋のプライドの高さなら、人前で不本意に犯されて、しかも快感を得ている姿を見られることは相当な屈辱だ。抗いたくても、植え付けてやった雷翔への罪悪感が抵抗を阻む。
 繰り返し与えた恥辱によって、水嶋の精神は現時点でもそれなりに疲労しているはずだ。そこにいままでよりも大きな負荷がかけられるようになった。――邪魔で仕方ない男でも、水嶋を壊すには利用できる。
 進藤を好きでいる限り、水嶋は幸せになれない。水嶋の思いは絶対に報われないから。
 だったら水嶋の心を壊して、進藤への思いを忘れさせてやればいいのだ。そうすれば不毛な片思いからも解放して助けてやれる。そうして水嶋が好きなのは雷翔だと洗脳してしまえば、水嶋は幸せになれる。幸せにしてやれる。この世界に、自分以上に水嶋を愛している人間なんていやしないと、雷翔は自負していた。

「劉。あんまり邸で派手なことすんなよ」
「ん……なんで」
「執事の一人に、現職の警察官がいるからな。逮捕されたくないだろ」
「それは困るなァ。捕まったら彬ちゃん愛してやれなくなる」

 笑みを浮かべて会話しながらも、互いの声に余裕はあまりなかった。水嶋の喘ぎも短く高くなっている。

「あ、あ、ア――――ッ!!」

 ――真っ先に達したのは、水嶋だった。雷翔の引き締まった腹に、水嶋の白濁が降り掛かる。
 吐精の衝撃で締めつけられて、雷翔と三宮は揃って息を詰めた。どちらが先かまで雷翔は気を回していなかったが、ともかく二人分の奔流が水嶋に注ぎ込まれる。入りきらなかった精液が、収まっている雷翔と三宮の雄の隙間からこぷりと零れ出た。

「は、は……っ……。――っだよ、結局無理矢理二本差しされてイってやんの。彬ちゃんのザーメンで俺の腹ドロッドロじゃねえか」
「……う……、あ……、っ……」
「ふ……。よかったな、水嶋。浅ましいところを進藤さんに見てもらえて」
「ッ……!」

 嘲笑するように言い放つ三宮に、雷翔は「俺が言おうと思ってたのに」と唇を尖らせた。見苦しい、と一蹴される。
 三宮が自身を水嶋から引き抜くと、さらに白濁が零れた。

「あーあ。せっかく彬ちゃんの大好きな汁、たっぷり出してもらったのに、勿体ねえの」
「好き、なんかじゃ、ない……っ」

 目を細めてからかってやると、水嶋はかぶりを振った。その頭を立ち上がっていた三宮が掴んで、水嶋の上体を強引に起こさせる。
 三宮は水嶋の口元を、萎えた中心に寄せる。

「――舐めろ」
「ッふざけんな……誰が……あんたの言いなりになるか……っ」

 三宮は反抗的な水嶋を鼻で笑う。

「じゃあ、進藤さんに綺麗にしてもらおうか」
「え……っ?!」

 急に矛先を向けられた進藤が、慌てた声を出した。雷翔からは水嶋の身体で見えないが、多分真っ赤になっているのだろう。

「やめろ! ……俺がする。やるから……」
「健気だねェ、彬ちゃん」
「……茶化すな、雷翔」

 上体を起こしながら言った雷翔を一睨みして、水嶋は意を決したように白濁に汚れた三宮のものに舌を這わせた。三宮に頭を撫でられると、水嶋は憎々しげに三宮を睨み上げた。
 雷翔は「本当に」と軽く笑う。

「茶化すなんてとんでもない。ムカつくくらいにお前は一途だぜェ、彬。いまのいままで自分のケツん中に入ってたザーメンまみれのモンなんて、好きな野郎にしゃぶらせらんねえって、万里の命令に従っちまうんだから」
「っン……!」

 軽く腰を動かすと、三宮のものをくわえた水嶋がくぐもった声で喘いだ。

「お盛んだな、劉」
「そーでもない。このままもう一度犯してやりてェけど、さすがに無理、疲れた」
「ふ……そりゃ、あれだけ暴れりゃな」
「しかもその前に一回万里ちゃんの中に出してるからなァ」
「……?!」
「え、ええっ……?!」
「劉。余計なこと言うな。水嶋、休んでんじゃねーよ」
「んぐっ……」

 三宮は水嶋と進藤の驚愕に舌打ちをして、水嶋に腰を押し付けた。抱くつもりが抱かれたなんて不名誉なのだろう。自分より十センチほど背の高い雷翔を抱こうと思う時点で、三宮も好き者だ。
 三宮は水嶋に汚れを舐めとらせていたのを、おもむろに引き抜いた。すでに三回も達しているから、さすがにこれ以上遊ぶ気にならないのだろう。
 水嶋は息を荒げ、涙目で口を拭っている。雷翔は水嶋の頬をことさら優しく撫でてやった。少しだけ淀んだ眸で見てくる水嶋に、雷翔は微笑みかける。
 頬を優しく撫でて微笑を見せる。これはいつの間にか、乱暴の終わりを告げる合図になっていた。水嶋は心底安堵したように息を吐いて、自ら雷翔のものを引き抜いた。
 つとめて進藤を見ずにいる水嶋が震えているのを見て取って、雷翔はほくそ笑む。

(ハ……楽しくなりそうじゃねェか)

 きっともうすぐ水嶋が手に入る――。そう思うと、雷翔の口端は勝手につり上がった。

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