Novel | ナノ

桜歌 Celebrate Kirsche7(2)


 さて話は少しばかり前に戻って、妖精との共同生活に入って三日目のこと。
レヴェリーが参加した最初の選り分け作業分はその頃には大分終わりが見えてきていた。
ロックバイソンはみんなの緊張を解そうとしているのか気さくに良く話しかけてきた。
今まで外見上のイメージからもう少し無口な人物だと想像していたレヴェリーはロックバイソンって結構冗談とか言う人なんだねとタイガーに言った。
レヴェリーと花びらの妖精は十歳以下の子供にしか聞こえない音域の更に限られた極周波数で会話していた。
その為周りには全くこの会話は聞こえておらずレヴェリーは安心してタイガーに注釈を入れて貰っている。
かなり信じてはいたもののやはりふとした拍子に自分の気が狂ってるんじゃないのかと不安になる為、本当かどうか現実のヒーローと花びらの妖精のいう事を互いの発言から検証しようとしていたのだ。

「ろっくばいそんはおれのこうこうじだいからのしんゆうなんだおくさんのこともこうこうせいのときからしってるむすめのこともしってるあとわりとしゃいおんなのこまえにするとどもるひーろーてぃびーのあにえすがすき」

 HERO TVのアニエスさんってえーっとプロデューサーの人? マーベリック事件でヘリコプターに乗って中継してた人?

「わかんないけどかみのけながくてめがつりめできがつよくてずけずけおどす」

 脅す? ヒーローを??

「とくにおれにきついじゃっかんあれほんきでいってるおまえがみがわりになれとかおまえがこわしすぎるいうことをきかないとああなるこうなるばいしょうきんをとくにたてにしてめちゃくちゃいってくるでもまあうではいいよゆうどうとかあんまりまちがえないからばにーはかってるなおれはさんどばっぐのやくだわばいそんもけちょんけちょんにいわれるけどあいつはまぞだからよろこんでる」

 ホントなの? それってホントなの?
ねえちょっとタイガーなにか嘘ついてない? やめてよ私ロックバイソンどころかヒーロー全体に対してみる目変わるよ。

「ほんとほんとあっそれよりおれがこのしたにいっぱいいるあつめてれうぇりーはやくあつめて」

 はいはい。もー人使い荒いよタイガー。

 ブツブツと盛大に文句をいい、結構ずけずけとタイガーにこっち? あっち? 貴方何処にいるのよどんだけいるのよ大体概算してよとそれでも確実に拾っていく。自分たちの会話は誰にも聞こえないという安心感もあってここ二日でレヴェリーは大分タイガーの花びらに気安くなっていた。

 タイガーに言いやすいのは本当かもねえ、こうやって話してるとなんか安心するし面白いもの。

「そうかなぶるーろーずはわだいがふるいいちいちこえがでかいえんりょがないださいってむすめみたいにおこるよあっでもおりがみときっどはやさしいなよくきゅうけいしつではなすよとれーにんぐせんたーっていってわかる?」

 わかるわかる、なんとなくわかる。へえ〜、ドラゴンキッドと折紙サイクロンってそんな感じなんだ?

「くちょうまでひーろーやってるときとかえてきゃらつくってるのはおりがみだけじゃないかなほかはみんなすとあんまりかわらないとおもうあいつぶろぐやっててまいにちよくひーろーのこぼればなしとかかいてるけどほかのひーろーのからみをきじにするようになったのはさいきんだな」

 あっ、知ってるよ! 私は普通に面白いと思うけどクラスの男子はムカつくとかなんとか色々ブログに書き込んでるみたい。あー! そういえば炎上したのタイガーのせいだよ、少なくとも一回は。どこかの遊園地? に一緒に遊びに行ってたでしょう? あれって日本展の親善大使やった時の話だったと思うんだけどあのアトラクション人気でずるいとかなんとか

「あーあのにほんのおばけやしきのあれな!あれはすぽんさーさんからのしめいだったんだよひーろーのなかでおれだけにっけいだからにほんかんけいだとへりぺりですふぁいなんすからぜったいこえかけてくんだよあぽろんになでもってかいしゃからいくようにぜったいいわれんのおれだけひまだからろいずさんがいやでもいけってそういうのひーろーのしごとじゃないだろっていうけどまあしかたないいちおうかいしゃいんだしせちがらいよなあまあおりがみはにほんにあこがれてるけどにほんじんじゃないしなべつにおれにばけるなりなんなりしていいよっていったんだけどぎたいはだめなんだとよくわかんないよなふつうにしごとだったんだばーなびーはそのひいそがしくてこれなかったんでべつにおれとおりがみがあそぶためにいったんじゃないぞ」

 そんなの判ってるわよ。でもヒーローって優遇されてていいなあってことって結構あるでしょ。一番最初に遊園地のアトラクションで遊べたり。花形職業の一つでもあるし解ってるんだけど羨ましー! って感じ? ほら同じNEXTでもヒーローに絶対なれない能力の人の方が多いじゃない。物理的に犯人捕まえたりする能力じゃないとヒーローは務まらないじゃない。そういう意味では折紙サイクロンは凄いと思うよ。擬態だから不意打ちとかで補うんだろうけどあれは男性だからでしょ。ロックバイソンだってそうだし……。やっぱり女性だと無理なんじゃないかなあ。ね、私なんかヒーローになれないNEXTの筆頭でしょ。

「まあなすごいのうりょくだとおもうけどへりぺりですがおりがみさいようしたときはおれらひーろーのあいだでもそうとうわだいになったからなこうげきりょくかいむのひーろーってありなのかよってまあくさわけになったのはすてるすそるじゃーだったけどかれがでびゅーしたときもわくわくしたもんなどんなひーろーになるのかたのしみだったおれはそのときちゅうがくせいだったけどって?なんだよ?」

 ああごめんなさいとレヴェリーは言った。

 タイガーにも中学生の時代あったんだね

「あたりまえだろおれをなんだとおもってんださいしょからおっさんのわけねえだろ」

 そんなくだらない雑談をしながらもレヴェリーはどんどん花びらを選り分けて、タイガーの山を作っていく。
周りのより分けボランティアたちも優秀で、ロックバイソンもその巨体に関わらず思いもかけず繊細に優しくより分けていくのを見てレヴェリーが感心したようにタイガーに囁いた。

 ロックバイソンって手先器用なのね、なんか武骨な感じがしてたからタイガーなんかわっさわっさ選り分けるのかなって思ってたんだけど意外。
私の方がちょっとぞんざいかな?

「ああろっくばいそんはあれだしゅみがしゅげいだからおれのおくさんよりあみものじょうずなんだあいつのこうこうじだいのしゅみはしゅげいときんとれだぞちなみにきんにくそだてるのすきなやつにはらいあんとばにーもふくまれる」

 嘘! 超意外! へー趣味が手芸って凄いなあ。でもって筋肉育てる趣味ってなによ解るけど! タイガーとファイヤーエンブレムは違うの?

「おれはがんばってもあんまりそだったようにみえないやつでふぁいやーえんぶれむはそだちすぎをきにしてるおりがみはきたえてもほそいままでおれとにてるなからだのたいぷがなまあじんしゅてきなものもあるなばにーはふとももなんかすげえぞ」

 どうすごいのよ?

「ないしょ」

 ちょっともー気になるじゃないのよ〜と言ったところで大変な訪問者があった。
バーナビーが今日回収した分を運搬がてらロックバイソンの担当する選り分け班の進捗を確認にきたのだ。
 タイガー! 丁度良かったわ、貴方の事を伝えましょうよ。
レヴェリーは良かった! と心の底から思った。信じてもらえないかも知れないけれどバーナビーにタイガーの妖精の事を話そう! そうすればきっとなにがしかの進展が得られるはずだ。それにきっとバーナビーも安心するだろうそう思ってちらちらと話しかけるタイミングを伺っているとなんとバーナビーは「この花びらが喋っている」とロックバイソンに伝えているではないか。
「マジか」
ロックバイソンががばっとストックバッグを開けて耳を近づけているが、何も聞こえないとがっかりしたようだ。

 ちょっとバーナビーったら凄い! タイガーの言う通りちゃんと子供たちのいう事なのに信用して試したんだってハンドレッドパワーってそんなことも出来るの?! 聴覚範囲のコントロールも出来るってちょっと凄い能力なんじゃ?! 驚き! ハンドレッドパワーってホントに応用の幅が広いんだ。?! ホントにヒーロー歴代でも最強の力なんじゃないの勿体ない! ちょっとタイガー馬鹿力の壊し屋じゃなくて変なおじさんやってる場合じゃないじゃない! タイガーも本気出せば凄いのね。ああヒーローってやっぱり凄い!

「ばかぢからのへんなおっさんはよけいだがれうぇりーばにーにはいわないでくれまだそのじきじゃない」

 え? 何言ってるの。

 安心させてあげなさいよ、なんなら私が通訳してあげてもいいのよ? ハンドレッドパワーそんなに使えないだろうしそのぐらい協力するわ。
しかしタイガーの妖精は「だめだ」の一点張り。なんでよとレヴェリーが理由を言ってよと押し問答の雰囲気になったあたりでバーナビーが声をかけてきたものだから、レヴェリーは発声領域を超高音域から戻せず喉を詰まらせた。
「…………っ」

「彼女凄いんだよ」とロックバイソンが言う。
それから彼女の能力をバーナビーに説明し彼女は場面緘黙症なので話すのが苦手だから返答を急かさないでやって欲しいと続けた。
それに頷いてバーナビーがレヴェリーに微笑みかける。
 余りに突然だったのでレヴェリーは内心パニックに陥りかけていたのだが、バーナビーの瞳を見て綺麗な緑色だわと思った。
「れうぇりーばにーにはいうなおねがいだまだだめだ」
 そんな彼女にタイガーが畳みかけるようにそういうのでレヴェリーは黙るしかない。

 なんでよ、なんで駄目なの? 安心させてあげましょうよ、こうやって貴方が話せること、ちゃんと意思の疎通ができるって判ればきっと安心するのに。

「れうぇりーそれはおれにもわからないんだもしもどれなかったら?もしもどることができなかったらばにーはいまよりもっとくるしむちゅうとはんぱなきたいはいちばんざんこくだおれたちひーろーはそれをいつもむねにきざんでるけれどばにーにはおそらくおれにたいしてそのかくごがないだからだめだ」

 どういうこと。

「無理に話さなくていいですからね」
 そうバーナビーはレヴェリーを労わりロックバイソンの方に行ってしまった。
結局レヴェリーはバーナビーに一片だけ何故かまともに会話になる花びらについて話せず仕舞いだった。
 タイガーはそれでいいんだというようにそれきり沈黙してしまうし、レヴェリーはもやもやするばかりで。でもそこまで言うなと言われればやはり自分の判断じゃ言えないなあと思ってしまった。
それでもこれが最良の選択であるのかレヴェリーには判別がつかなかった。
後で後悔することにならなきゃいいのだけれど。




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