Novel | ナノ

桜歌 Celebrate Kirsche7(1)


Kirsche7


「れうぇりーそとにさがしにいくときがきたおれをみつけてくれるのはおまえしかいない」

 んー、それはいいんだけど、ねえ、タイガーさ、バーナビーに言わないの? 貴方がここにいるって。

「いわないいいたくないつたえるひつようないそのまえにおれがぜんぶあつまればいいんだあつまればなにかかわるきっとおれはただひとりのおれにもどれる」

 そうかなあ……。

 なんかタイガーの言ってることって根拠あんまりない感じがするんだよね。
それでもレヴェリーはここ五日間この花びらの妖精と一緒にいて感じるものがあった。
タイガーから語られるバーナビーの姿はレヴェリーが想像していたものと違って変に生々しくて滑稽だった。普通のそこらへんにいる男と大して変わらないどころか少々子供っぽかった。それより輪をかけてタイガーの方が子供っぽいのだが、それに関しては判断保留。妖精というか超個体化しているせいで幼児化している可能性もあったから。
それよりも初日にレヴェリーがこの花びらの妖精にしつこく確認していたのは本当にワイルドタイガーなのかということ。
何回聞いてもニュースを何度見ても現実感がいまひとつ伴わず、どうしても自分の幻聴ではという疑惑が拭い去れなかったので必要以上に問いただしていたらしい。なんとしても信じて貰って力を貸して欲しいタイガー側にしてみたら当たり前なのだが、自分がワイルドタイガーであるという証拠として提示できるのが相棒の人となりだけだったということもあり、確認の必要以上の情報をレヴェリーに提供した結果、この花びらは幻覚でも幻聴でもなくワイルドタイガーであるという確信を彼女に齎すのと引き換えに、彼女の中にあった崇高かつ完璧なバーナビーの「シュテルンビルトの王子様」の印象を木っ端みじんにしてしまっていた。
 バーナビーというヒーローがタイガーに語らせるとかなり残念な人というのは、彼女憧れを粉砕するのに十分破壊力を持っていた。概ねそれが虎徹というヒーローではなく身近な一個人主観だということにまでレヴェリーが気づけなかったことが彼女の不幸でもあったが。
 物凄く完璧な、それこそ女の子なら普通に憧れるであろう理想の白馬の王子様そのもので、それが現実に存在していると思えた唯一の人だったのになんてこと。

 夢も希望もないわ……。

「れうぇりーはばにーがすきなのかおんなのこはみんなばにーにむちゅうだなしゅてるんびるとのおうじさまだもんな」

 でもタイガーの話聞いてるとなんかちょっとね。大分その残念な感じなんだなあって。もうタイガーの話聞いてるとショックでがっかりすることばっかりよ。知りたくなかったわ。

「さいきんおれいがいのにんげんにもこころをひらくようになったんだもしもっとすきになるこができたらそれはそれでよろこばしいことだおれはそれでもいいばにーがしあわせならなんでもいいんだほんとうは」

 しかしそれと同時にレヴェリーは気づき始めていた。
多分タイガーとバーナビーって両想いだ。付き合ってるかどうかまではわかんないけど、それ相応の関係な気がする。信頼というには強すぎる。恋愛というには距離があり、その癖互いの体温を言葉の端々に感じるのだ。
タイガーはバーナビーのことをとても大切に思っている。そして多分バーナビーもタイガーの事をとても大切に思っているのだろう。高飛車で傲慢で意外な事に臆病で気が短くて割と泣き虫なところがあって更に時々子供っぽく負けず嫌いで些細な事で絡んできておじさんよばわりで説教して上からで強引で我儘でそれでも愛してるって言って大好きって離れないで振り返ってくれてキスをして抱きしめてくれる人。そんな相手を私は知らない。自分じゃなくてもいい、バニーが幸せなんだったら横に立つのが俺じゃなくても誰でもいい、相棒がライアンでも。全部、バーナビーが幸せであることが中心なんだなあタイガーは。それはどれだけの想いだろうか。近いのは自分の父と母の愛かも知れないと思った。タイガーにとってバーナビーは自分の子供みたいなものなのかなあ。それとも突き詰めるとその人が好きってことはそういう無償の愛的なものに行きつくのかしら。
 うーんまーでもねータイガーもねーなんか大概変よね。
花びらの妖精から色々と話を聞きだし――大半は勝手にタイガーが喋ってただけでレヴェリーは聞いても居なかったのだが――た代わりにレヴェリーも自分たち市民から目線でのタイガーとバーナビーの印象やニュース、話題などを教えた。
 案の定、一番この花びらの妖精が慌てて否定に入ったのが「タイガーとバーナビーが付き合ってる、結婚までもうあと僅か」というBchの例の噂だった。

「どうしてそんなことになったんだどうしてだばにーはへんたいじゃないぞあせくしゃるでもないそんなにつめたくないちゃんとひとをあいせるおとこだだれだそんなことをいったやつていせいしてくれれうぇりーいますぐていせいしてくれけっこんとかいってるやつはさくじょしてくれおれがよくてもあいつがこまる」

 えー無理だよー削除なんてやり方わかんないし無理じゃないかなあ。

「じゃあていせいしてくれいますぐに!そうじゃないっていってくれたのむ!」

 仕方がないのでレヴェリーは例の有志が立てたタイガー収集ミッションの掲示板に花びらの妖精が言った訂正文をそのまま書き込んだ。案の定炎上しただけだった。余計に内容が拡散されたみたいと言ったら次の日も訂正してくれ、今度こそちゃんときちんと訂正してくれと喚かれた。
 無駄だと思うと言ったけれど花びらの血管(そんなものはないと思うけど)が切れそうだったので仕方なくもう少し長く丁寧に書き込んでみた。やっぱり逆効果だった。
完全に自分は荒らしだと思われたようですと言ったら、妖精が超音波の怒声を喚き散らしはじめたのでレヴェリーはタイガーが冷静になるまで暫く聴覚チャンネルを変えなきゃいけなくなった。

 それさーもう完全に自白してるよ。タイガーさ、バーナビーと付き合ってるでしょ。

「そそそそそんなことないあいつとおれとはぜんぜんかんけいないぞまったくだなんのやくそくもしてねぇしなにもかわしてないもちろんけっこんなんておおうそだおれはきいてないきいたおぼえがない」

 聞いた覚えがないのはタイガーだけなんじゃないの?

 ものすごく的確なツッコミだったらしく、その後またタイガーが叫び始めたのでチャンネル変更。
もう疲れちゃうから一々反応しないでよ、もう黙っとく方がいいよ喋るだけ墓穴になってるよというと「そうなんだろうか」としょげられてこれはこれで鬱陶しいなと思った。

 もーなんでもいいよ。後ね、市民が何を言おうと好きなら好きでいいじゃない。むしろ堂々としてた方がいいと思うけど。別に誰が誰を好きになろうが構わないんだし。タイガー隠すつもりなら余計なことを言わないことよ。貴方ダダ漏れの人だもの。


後ブルーローズが自分の事を嫌ってるおじさんだからくさいだのかっこ悪いだのずけずけ最近言われるようになって辛いとか言ってたけど、恐らくブルーローズはワイルドタイガーのことが好きなのだろう。レヴェリーはそれも見通していたがそれはわざと伝えないことにした。これまた非常に鬱陶しいことになりそうだと悟ったからだ。
 でもってこれってもしかして全体的にのろけなのかしらね、と気づいてうんざりもしていた。

「ばにーはおれにたいしていっぱいがまんしてたとおもうほんとうならこたえてやりたかったんだけどそうもいかなかったんだおれむすめがいるしひーろーだしばにーをぜったいいちばんにしてやれない」

 はいはいはいはい。

「いちばんにしてやれないんだもしばにーとむすめがおなじばしょでおなじところでふたりたすけをよんでいたらそしてひとりしかたすけられないならおれはむすめをえらぶきっとむすめをえらんでしまうばにーをえらぶことはありえないんだむすめじゃなくてもそれがしみんならなおさらおれはばにーをみすててしみんをたすけるそのだれかわからないひとりをたすけてしまうだれがあいてでもばにーをいちばんにしてやれないおれはばにーをぜったいにいちばんにしてやれない」

 ……。

レヴェリーは苦悩する花びらに向かってため息を吐いた。

 でもそれって仕方がないんじゃない? 貴方たちヒーローなんだもの。もしもの場合の選択例がおかしいよ。だって無力でなんのちからもない人間とバーナビーっていうシュテルンビルトのヒーローが同じ立場で助けを呼ぶようなことってあるかなあ。そもそもさもし助けを呼ぶ人が居たら私だって何の力もなくても助けに行くと思うのね。それでね、どっちか選べって話だとしたらね、もし目の前にバーナビーとタイガーの娘さんがいたら私なら迷いなく娘さんの方助けると思うけど? だって娘さんなら最悪ひっぱってでも連れ出せたりもしかしたら抱えて歩けるだろうけど、バーナビーじゃ無理だもん、私潰れちゃうよ。

 でも、とまだ何か言い募ろうとしている花びらにレヴェリーはぴしゃりと言った。

それにバーナビーならひとりでなんとかするよ、そしてそういうことがもし起こったとしてもタイガーが娘さん助けるのを恨んだりとかましてや嫉妬するなんてありえないと思うんだけど。私がバーナビーだったらタイガーが娘さん放置して自分を助けてくれても絶対嬉しくない。その後ずーっとずーっと良心の呵責で魘されるよ。バーナビーってなんかいっぱいトラウマあるんでしょ? タイガーが新しいトラウマ作ってどうすんのよ。もしそれで娘さんが亡くなったりなんかしたらタイガーとだって顔合わせにくくなるだろうし下手するとヒーロー出来なくなるかも。それってヒーローにとってアイデンティティに相当するような問題じゃないの? タイガーだったらどうなのよ自分放置して娘さんをバーナビーが助けたらどう思う? 私が父親だったらすっごく感謝しこそすれ恨んだりなんか絶対にしないよ。後タイガーはちょっとバーナビーに対して失礼だと思う。バーナビーは凄いヒーローだよ私はそう思う。絶対そういう時タイガーが心配しているようなことにならない。そこはヒーローとして信頼すべきなんじゃないの? 相棒のタイガーがそんなんでどうするのよ。貴方はバーナビーが俺の事を信用してないって思ってるみたいだけどお互い様。まず信用してもらいたいなら貴方が先にバーナビーのことを信用すべき。


 暫くの沈黙があった。
おっ、これは納得したかな? とレヴェリーがやれやれと机から立ち上がると花びらが唐突にぽつりと言った。

「おまえいいこだな」

 どういたしまして?

「こんなみずしらずのおれのいうことをしんじてくれててをかしてくれてさらになぐさめてもくれるんだもんなごめんなおれおまえになにもたぶんかえせないきっとこうやってはなしたこともおぼえていられないなにかかえせればいいんだけどそれもできそうにないしてもらうばっかりで」

 レヴェリーはちょっと笑った。

 見ず知らずじゃないよ、シュテルンビルトのヒーローでしょ。ワイルドタイガーはデビューの頃から知ってるよ。勿論こんな風に人となりを知ってる訳じゃないけど覚えてる。私たちシュテルンビルト市民なら誰でもヒーローが居ることを知ってる。そこにいてくれてるのが自然だからいつもはそんなに意識してないけど、先月の事件は私だって知ってる。タイガーがどんなに頑張ったかも。色んなヒーローが現れて引退していなくなるけど、その中でもタイガー&バーナビーは私にとって最高のヒーローだよ。私たちは守られてることを知ってる。いつもありがとう。だからこのぐらいなんてことないよ、むしろ私みたいにヒーロー向きじゃない力でも他人の役に立てて嬉しいんだ。それがヒーローを助ける為なんて格好いいじゃない? 私にも判ってたよ最初から。元のタイガーに戻ったらきっと私と出会ったことも忘れちゃうでしょう。でもそれでいいんだよ私が覚えてるから。ヒーローってそういうもんでしょ?

 それからレヴェリーは付け足した。

 タイガー集めるボランティア、意外にいいお小遣い稼ぎになった。将来アポロンメディアに就職しようかなー、倍率凄そうだけど。

「そいつはいいかんがえだれうぇりーならだいかんげいだおれはもういんたいしていないかもしれないけど」

 そういう時は よし! 待ってるぜ! っていうものよ。

「そうかそうだな」




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