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喪 失(6)



 幾日も幾日もそんな日が続いた。
バーナビーは遠ざけられていたから、彼が夜何をしているかは知らない。
アントニオとネイサンが、虎徹の以前の行動範囲を、夜の動向をよく知っていたから、彼らにそのあたりの監視は任せた。
特に変わらず、彼は独りで飲んでいるとアントニオは言った。
 その昔、自分の妻である友恵を亡くしたとき、虎徹は相当荒れていたそうだが、そういう感じではないとは言う。
多分、バニーは友恵と違って、虎徹の中で死んだわけではないんだろうなと、アントニオは言った。
だから探せば見つかる。
そう、虎徹は思っていたのかも知れない。
 少し気をつけてることがあったと暗にアントニオは言った。
でも、そんなに心配は要らないかもしれない。 友恵と違ってバニーは生きているという認識なのだとしたら、虎徹がバニーを裏切るはずがないと。
一瞬言われている意味が判らず聞き返すと、昔荒れていたとき、結構な頻度で彼は一夜を共にする相手を探していたという。
 それは多分失われたものの重みを手に感じたかったからだろうと、そんな風にアントニオは言っていた。
だが、バニーが生きている以上、虎徹はバニーに操を立てるだろう。 だから問題ない。
 そういわれて、バーナビーはむしろ総毛立った。
だって見つけてしまったら?
虎徹さんが、バニーを見つけてしまったら? そんなわけないと思いつつ、バーナビーは動悸が収まらなくなった。
この世の中には、同じ顔をした人間が3人はいると言う。
もし、バニーを別に見つけてしまったら?

 そう考えたせいなのか、それが夢に出てきた。
妄想だと解っていても止められない。
 夢の中、自分と同じ容姿をした男が立っている。
バニーは虎徹の呼び声にそれは嬉しそうに走り出し、やがて彼を抱き締めると、肩を抱いて去っていくのだ。
 待って。
バーナビーがそう叫ぶと、彼は振り向く。
 翡翠色の瞳を細めながら、バーナビーを振り返り、にやりと笑う。
それに虎徹は気づかない。
バーナビーがどんなに叫んでも届かず、虎徹がバニーに笑いかけて、やっと見つけたと言葉を紡ぐ。
 そして二人は――――。

バーナビーは絶叫して飛び起きた。
失ってしまう、取られてしまう。
バニーに、彼を取られてしまう。

それは死神なんだ、虎徹さん。 それはバニーじゃない、違うなにか恐ろしいもの。
僕じゃない、その男は僕じゃないんです。
 僕じゃない・・・・・・。
バーナビーはその日朝起きて決意した。
バニーじゃなくてもいい。 バーナビーとして、改めて虎徹さんに認識してもらおう。








 その日も特に出動はなく、二人で本社からジャスティスタワーへ向かい、トレーニングをして汗を流した。
ロッカールームで虎徹が着替える傍ら、自分も着替えていたが、その背をバーナビーは見る。
そしてそっと振り返り、虎徹の肩を掴んだ。
「バーナビー?」
 虎徹が怪訝そうに聞いてきて、バーナビーは虎徹の身体を後ろから抱きしめた。
虎徹がくすぐったそうに、前に逃げようとする。
それをやんわりと引き止めて。
「バーナビー、やめてくれ、放せよ」
「嫌です。 虎徹さん、僕がバニーなんです。 思い出してください」
「え?」
「僕がバニーなんです。 あなたが探しているバニーは僕の事なんです。 思い出せませんか?」
 虎徹の目が泳ぎ、それから思い切りバーナビーを振りほどこうとして出来ず、もがいた。
「何を言い出すんだよ、俺のバニーはお前とは違う。 別人だ。 頼むから放してくれ、冗談も大概に・・・・・・」
「・・・・・・では、いいです。 虎徹さん、僕はあなたが好きです。 始めませんか? 最初から。 バニーなんてもう探すのをやめて、僕と、バーナビーと付き合ってみませんか」
「何アホなこと言ってるんだよ、お前は大体男だろう?」
 虎徹がもがき、バーナビーはそこまで言ってやっと虎徹を放した。
「バニーだって男だったじゃないですか。 そこまで探して見つからないんです。 もういいんじゃないですか? 僕を、バニーの代わりが僕では勤まりませんか?」
「・・・・・・・、無理、だ」
「何故?」
 何故、という言葉に、虎徹の目が迷うように動いた。
「だって、お前は男で」
「バニーだって、男だったでしょう?」
 そうだ、と虎徹は頷いた。
「髪の毛の色は?」
 金髪だった。 バーナビー、お前と同じ色の。
そう。
 バーナビーは、ふと嬉しくなった。
このまま、矛盾を潰していけば、彼は思い出さないだろうか?と。
「瞳はどんな、色でしたか? 覚えてませんか?」
「いや、覚えてる・・・、碧、だった。 翡翠色の、お前と同じ・・・・・・」
「そう、僕と同じ色です」
 明らかに虎徹は混乱した。
でも、違う、バニーじゃない。
お前はバニーじゃない、違う、違うんだ。
 どこが違うんです。
バーナビーは畳み掛けた。
「ねえ、虎徹さん」
 虎徹はずるずるとその場にへたり込み、両手で顔を覆った。
「・・・・・・解らない・・・・・」
 解らない、どうしよう、解らなくなった。
バニーは、俺のバニーは何処へ行ったんだろう。
でも、お前じゃない、それだけは解るんだ。
 ごめんな、バーナビー、 俺はバニーを探さなきゃならない。 お前じゃバニーの代わりにはならないんだ。
今日はここまでだろうかとバーナビーは思った。
なので、そんな虎徹を立ち上がらせて、言った。
「解りました。 今日はもうこれ以上追及しません。 でも虎徹さん、僕は本気ですから。 どうか僕と付き合ってください」
 虎徹は答えなかった。




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