Novel | ナノ

 エア無配<1> 俺とイルカと人魚と蛸


エア無配<1>


TIGER&BUNNY
「俺とイルカと人魚と蛸」
The aquarium where a mermaid is.
CHARTREUSE.M
The work in the 2014 fiscal year.



 俺は人魚である。
だが好きでこうなったわけではない。ついでに人魚っていうものがここまで他生物に好かれる生き物だってことも知らなかった。
そもそも人魚は実在するのか。聞いてみたけどこいつらどいつもこいつも答えやしない。
 イルカ共は近頃発情期らしい。
そのせいか余計に好奇心旺盛になって、凶暴で攻撃的でヤバい感じだ。
雄と雌を分けて飼育しているのは別に構わないが、この時俺が入っているザ・オーシャンシー・パシフィックのオープンスペースに居たのはだから、若い雄のイルカばかりだった。
ザ・オーシャンシー・パシフィックの別区画、実際は人が殆ど見えない部分に雌イルカや、その雌イルカとパートナーになっている大人の雄イルカ、そして子供たちが居るのだが問題はこのザ・オーシャンシー・パシフィックは中で繋がっているのだから、音が筒抜けなのだ。
 簡単に言うと、雌たちが致しているのも全部こちらには判ってしまうってことである。そりゃそうだろ、幾ら巨大水槽だっつっても所詮人の手によって造られたものなんだから自然界の海と比べるのもおこがましいぐらい狭い。
 響き渡る嬌声、といっていいのかね。兎に角直ぐそこで、やることやってるペアがいるっていうのに、自分たちはあぶれて何もできないまま。まあいうなれば、すげえ空気の読めないカップルが複数いて、他のあぶれ男子を慮る事なく昼夜関係なくやることやっていちゃいちゃを見せびらかしている、という感じかな。いや違うな、色々いざこざも起こってるし、雌にはったおされたりする衝撃波とかも伝わってくるから、うーん? あ、あれか、一度なんかバニーがトレセンのロッカールームでやりたいとか馬鹿なこと言い出して、すったもんだやった後、結局俺が力負けして妥協案でシャワールームで口でしてやったんだけど、シャワールームから疲弊して出てきたらバイソンがいつの間にかいやがって「てめーらいい加減にしろよ」ってなんでか俺だけ殴られたっていうああいう状態だな。別にみせびらかすつもりなんかねーっつの。むしろ隠したかったよ、俺だって! 畜生、思い出したら段々腹が立ってきた。あれはどう考えてもバニーが悪いじゃないか。俺はいやだッってあれほどお断りしてたのに。バイソンだって聞いてたんだろうありゃ、聞いてたんならお前があのバカ兎に説教してくれりゃ話は収まったのに、てめーが俺だけ殴って終わりにするから、「今度は匂い消しもってきます」とか凄い解決案でアイツ済ませちまったんだぞ! あれはリトライするっていう意味だぜ? ああ畜生、この苛々を俺は誰に向ければいいんだ。
 イルカか? イルカでいいのか? あいつらで?
ああもう、たまらねぇ〜。でもってそうだ、イルカの話だった、そうその雄の若いやつらだな! あいつらの目つきを知ってるか。あれは手ごろな群れの面子じゃない同じような大きさで襲えそうなものがやってきた、お仲間掘るのにみんな虎視眈々と相手の隙を狙っていたが、やっぱ仲間なわけで。一番弱い雄が選ばれるんだろうが、全員が全員俺が入ってきた時「こいつでいいんじゃね?!」とか「うっは、いい獲物キター!」って顔になってたぞ! なんで飼育員とか人間は気づかないんだよ。俺も大概鈍いけどさあ、これ俺の貞操の危機だぜ、しかもイルカだぜ?! なんていうのこれ、獣姦ってやつじゃねぇの?
 最初こそ、優しかったけど、単にヤれそうなのか具合見られてた気がする。俺が会話できるのに少しびっくりしてたしな! 実際この若い雄イルカの群れのグループで一番でかい多分リーダーに相当する雄だけどさ、こういってたぞ。
 自分は割合人間も好きだ。種族はあまり関係ない、素敵な身体をしてるやつなら皆好き。人間も優しいから好き。性差も判る。やっぱ女の方が柔らかそうで好き。人間は肌がすべすべだから好き。鮫は形が似てるけど肌がざらざらして駄目。あんたみたいなのは人間より尚好き。
 へー、そうなんだ、性差が判るんだ? 人間の女性と男性の区別がついてるってこと?
判る、判るさ、恋するなら女だ、雌じゃなきゃ。だけど練習なら雄でもいい。形が似てれば別にいい。
 え?
ぼけーっと話を聞いてたあの時の自分を殴ってやりたい。
一通りザ・オーシャンシー・パシフィックについて教えてもらった。そこまでは良かったんだ。他のイルカたちも可愛らしいもんだったしな。
だが俺はイルカっていう生物を完全に見誤っていた。っつーかな、これは人間の勘違いが一番問題なんだろうって思ったよ。もうちょい正確にだな、生き物は見たほうがいいな! イルカっていうものだけじゃなくて生物全般だよ、人間は人間の都合のいいようにしか生き物見てない。あいつらは俺らと全く変わらねぇよ。楽しい事大好き、即物的な事大好き、刹那的なことも大好き、セックスも大好きだ。気持ちのいいことには人間以上に躊躇が無いぞ、だってあいつらの社会には裁判所とか警察なんかないからな。どうなるのか火を見るより明らかじゃないか。海の中で火なんか見れないけどな!
 お前を使いたい。お前は具合がよさそうだ。
と来たもんだ。
 はあ? 何を使うって? 俺を? 使う?
って思った時にはもう体当たりされ――そうになって避けてた。おお、俺の身体なんか凄いんだよ。水圧っていうかさ、そんなほんの少しの水の動きでさ、自動的に身体が反応するの。昔なんか学校で習った気がするな、魚の身体には側線ってのがあってそれが水圧やらなにやら、耳の能力を補佐するというか増幅してるんだそうだ。神経に直結してるので考える必要もない。このイルカが何度も何度も突っ込んでくるんで、なんかめんどくさくなって俺はもう案内はいいからって断って下まで潜った。
その時はそれで終わったんだけど、問題はこの後からだったんだな。
次の日から俺は入れ替わり立ち代りやってくるイルカのお誘いを兎に角片っ端からお断りするということになってしまった。
 なんか十頭全体で追いかけてきて、俺を押し上げようとしたりしやがったんだぞ?!
一体全体何がしたいんだよっ! と最下層まで逃げてきたら、彼女が凄く心配そうにこう言ったんだ。
 ワイルドタイガー、貴方逃げた方がいいわよ、って。
彼女は俺と一緒に幻獣化されてしまった元はとても美しい女性なんだけれど、救助した時自分が幻獣化したのに絶望してそりゃあもう、大変だったんだ。
俺にはまだ彼女が彼女のままで見えるのだけれど、観察した限り、他の人間には彼女が誰だか判らないらしいんだ。俺もそうだ――ヒーロー仲間たちが来て俺嬉しくて、やあこんなんなっちゃったけど元気だからさ、と話しかけたのに伝わらなかった。それどころか、バニーが元に戻るんですか、って泣きそうな顔で言うんだぜ。それで俺は判ったんだ。俺の姿は今あいつらにとって酷い事になってんだなあって。彼女――こんなに綺麗なのに、あいつら本当に酷い。でもこれで判った。彼女が嘆くように多分彼女は待っている人に自分をみつけてもらえない。こんなに変わってしまっていたら・・・・・・。まあ兎に角だ、他の人間にはもはや変わり果てた幻獣としか見えなくなっている俺らだったが、どうやら幻獣化した者同士には、自分の前身、人間であった時の姿がイメージとして重なって見えるんだ。勿論意思の疎通もできる。彼女にも俺が人間であった時の俺だって見えて判ってたらしいから。ただし、変化する直前に着ていたものとかそんなもののイメージで固定してしまっているので、彼女には俺がずっとヒーロースーツを着ているように見えるらしいんだな。自分、割合ダンディなんですよ、スーツの姿しか君に判ってもらえないのが辛いな、と少し格好つけて言ったらちょっとだけ笑ってくれた。

――BBJが貴方の思い人なの? 報道ではそう言う話一切聞かなかったからびっくりしたわ。その指輪は彼がくれたの?
 いやこれは、前のかみさん・・・・・・もう死んじゃったんだけどな、ずっとつけてる。あいつも外せって言わないし、だからいいんだ。
――そうなの、バニーっていうのはBBJの愛称?
 BBJって、君の国の報道機関ではそう言われてる?
――そうね、タイガー&バーナビーっていうヒーローは有名だからそういう風にセットで聞くことはあるけど、それとは別にBBJってブランドがあるのよ。聞いたこと無い?
 聞いたことあったような気もするけど、あんま興味がないからなー俺。アイツブランドなんか持ってたんだ。コエエ・・・・・・だから水着とか下着とかでグラビア撮影すんのかなあ。兎に角良く脱ぐんだよな。つかアイツ世界中に色々仕事展開してるからさ、どっちかっていうと芸能人に近いよな。モデルもやってるし才能あるんだ、多方面にさ。俺みたいにヒーローしか出来ない単細胞じゃないし。
――BBJっていうのはコンチネンタルエリアでは一般的な表現ね。ポスターなんかにBBJって刻印されてる事が多いのよ。むしろバーナビー・ブルックスJrって全部書かれているものはヒーローとしての彼? の宣伝ぐらいかしら。
 あーなるほどねー、アイツヒーロー名称がバーナビー・ブルックスJrだからな。トレーディングカードにもそう記載されてるから、他の仕事んときはわざとBBJって略称使うようにしてんのかもな。知らんかったわ。
――ニューワールドエリアではバーナビー・ブルックスJrで通じるからいいんでしょう。でもちょっとモデルなんかで活動する愛称としては長いわね。バニーにすればいいのに。
 いや、これは俺が勝手につけちゃったあだ名だからアイツ本当は嫌がってんだよ。虎徹さんだけ特別な名称で呼んでくれてるってことで我慢します、って面と向かって言われた事あるぞ俺。だからホントは大嫌いな呼ばれ方なんだと思う。
――貴方だけが呼んでいい特別な名前なのね。羨ましいわ。BBJは貴方を見分けてくれた・・・・・・どう思う? タイガー。
どう思う? とは?
――私たちを幻獣から戻す方法ってあるのかしら。あるのだとしたらそれはみんな同じ条件なのかしらって。もしかしたら全員違うのかも――その容姿に関係しているのだとしたらタイガー貴方は人魚姫ね。恋が成就すれば、貴方は人になれる?
 失敗したら泡なのか俺は。
俺がそう笑ったら、彼女は首を振った。
――何をもって成就というのかもわからないから、――何が解除条件なのか判らないから出来るだけ注意深く行かないと。気をつけないと駄目よタイガー。
 気をつけろって?
本当に判らないからそう聞いたら、彼女は口元を押えた後そっぽを向いて、珊瑚の向こうに隠れながらとてもいいにくそうにこう言ったんだ。
――その・・・・・・人魚姫の解釈がそうなのかもわからないけれど・・・・・・純潔に気をつけろっていうことよ。貴方がその姿のままでその・・・・・・彼と結ばれるということが解除の条件だったら最初の貴方の相手がイルカだったらどうするのっていう話なのよ。
 んあ? 意味が判らないんだけど・・・・・・。
――だから馬鹿ね、貴方っていう人魚の初めての相手がイルカだったら、その解除の条件だと二度と貴方人に戻れなくなるじゃないの。そう言う細かいところに気をつけないと今は私たちとてもまずいんじゃないのって言いたいの。ごめんなさいね、変なこと言って。でもイルカたちが話してるのはそういうことよ。私には彼ら幸い興味が無いから結構聞こえるところで話してるの。気をつけてねワイルドタイガー。私の声がBBJに判るのなら、私が忠告しにいってあげるのだけれど、ごめんなさい。
 はあ? ん?? いや、んあ? え?

 その時は本当に俺マジで判らなかったんだ。だから本格的に襲いにこられて初めて理解した。ちなみにその時理解が追いつかなくて対処が間に合わず接近を許してしまった。フツー考えないよな、こんなこと?! ないだろフツー、相手が別種なのになんで欲情できんだよ! まあ無理矢理理解したっつーか、ヤべえって判ったけどさ、もうこの時点で手遅れだよな?! 大変な事になったと思ったもんさ。
なのによ、悠長にそん時、バニーと飼育員が水槽の向こうで俺らを観察してるしさ、そうじゃねえだろ! お前俺今貞操の危機に直面してんだぜ?! 楽しそうに泳いでますよ、じゃねーよ!!

 やめろっつってんだろ、ぼけたれがーッ!!

 色々突き抜けた俺は激怒の余りイルカを自分の足――じゃなくて尾で思いっきりひっぱたいてしまった。ちょっと八つ当たりも入ってた、ごめんな、イルカ。
つーかもーひっぱたくじゃねーな。蹴り上げた、だな。その時俺の中で何かが発動して、あ、俺ハンドレットパワー使えたんだ、やった! と思った。その時まで俺自分のNEXTのこと全く失念してたぜ! が、良かった。多少手加減しといて。危うくイルカを真っ二つにするとこだった。これじゃ水族館がスプラッタだ。いきなりホラーだ。スカイハイが泡噴いて死んじまう。あいつ、海洋ホラーもの大の苦手なんだよ。なんかのプレミアムに招待されてヒーローたち全員で映画鑑賞したことあったんだけど、アイツマジで固まってんだぜ。鼻水垂らして後からギャンギャン泣かれた上に、ワイルド君! 今日は一緒に寝てくれ! とか凄い事言いやがるから、バニーに俺全く無実なのにえらい折檻されてこれまたヒデエ目に遭ったんだ。あれ以来、映画鑑賞会に招待される時は、スカイハイとは出来るだけ離れるようにしてる。ていうかバニーが間に絶対挟まるようになったからもうどうでもいいんだけどさ。
おっと、また嫌な事思い出しちまったじゃねえか。
 ま、いいや。
 バニーが今日も来る。
バイソンも、スカイハイもファイヤーエンブレム、ドラゴンキッド、ブルーローズに折紙。
皆凄く俺のことを心配している。俺は毎日あいつらに会う度に、どうやって大丈夫だって伝えようかと思う。
伝わらない・・・・・・多分俺の言葉は今、人には理解できないものになってしまっているんだろう。それを認めるのは辛かったけれど、それでもあいつらが俺を観て少しはほっとするように振舞えればいいやと近頃思うのだ。
楽天的かも知れないが、俺はなんだか大丈夫な気がしてる。バニーには怒られちゃうだろうけど。貴方いつでも楽天的過ぎるんですよって。
 話したいな、どっかで話せるようになればいいな。割合俺お前たちのいう事判ってるんだけどな。
今日はなんかザ・オーシャンシー・パシフィックの上が開いた。真っ直ぐに差し込んでくる光、本物の太陽の光だ。
 水槽の中の奴らが皆喜んでる。
歌を歌ってる。凄い大合唱だ、この歌を人間が聞けないのは残念な事だ。水は澄んで、光は真っ直ぐに美しくて綺麗で。
 俺は浮上する。
水の中は結構綺麗で面白いんだぞ、割合楽しくやってる。だからホント、そんな顔すんなよ。

 俺は今んとこ人魚だ。
否定してもしょうがないんでなんか変なことになったなあ、難儀なことだなとは思ってるけど、心配すんな! きっとなんとかなる。
 理由も根拠もないけどさ。
だから笑っててくれよ、俺も出来るだけ笑う。んでもって歌うよ。
お前に気づいてもらえるように。そうさ、優しい歌は世界を変える。
触れなくても声が無くても俺はお前を抱きしめる。

 上に来いよバニー。本当は今すぐお前を抱きしめたい。
せめて地上で顔を見せて。




 FIN.

「俺とイルカと人魚と蛸」



※エア無配を希望してくれた Tさんの感想、『言葉が通じなかった時の虎徹さんは何を考えていたのかな(どう過ごしていたんですか/大意)』の部分をSS化してみました。




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