Novel | ナノ

SPLASH!〜人魚のいる水族館〜(7)


SPLASH3

 特別閲覧チケットを貰った。
週末からマリンショー再開だという。日参しているのだからついでにどうぞとヒーローたち各々全員がパシフィカルグラフィックから贈呈されたのだ。
再開初日の午後一番のチケットだ。
 バーナビーはこのチケットがすでにネットでは売り切れになっていて、ダフ屋が転売に精を出しているのを知っていた。バーナビーが認識しているよりもこの水族館は有名で人気があるのだ。
「イルカとオットセイと?」
 オルカはいないのかと聞くと、現在パシフィカルグラフィックにはオルカは飼育されていないとのこと。そういえば観た事がないとバーナビーは思った。
「ハンドウイルカとカマイルカですね。うちはイルカも他の魚たちと一緒の水槽に飼ってますから。オルカは無理なんです」
 鮫はいるのに? と聞くと ジンベイザメとレモンザメですからねえと言われた。どちらも人間を襲う可能性が非常に低い、性質の穏やかな鮫なのだそうだ。
「上手く飼育してると思いますよ。でもオルカはザ・オーシャンシー・パシフィックで共生させるのは少し難しいですね・・・・・・最初から水族館生まれなら割合大丈夫と聞きますが」
 イルカはともかくアシカやオットセイが食べられちゃうんでと言う。
 成る程。
バーナビーは頷いてチケットを受け取る。
二枚貰ったので単純にペアチケットなのかと思ったらそうではなくワイルドタイガーの分だといわれた。
「ヒーローさんたちには全員差し上げる事になったんですが、司法局から届けを出せってことで。その時、便宜上でもなんでもいいんでワイルドタイガーの分も発行しておけって言われたんです。・・・・・・彼、現役のヒーローで現時点も実稼動している・・・・・・ことになっているんですもんね」
「・・・・・・」
 飼育員がちょっと寂しげな目をしたと思った。哀れまれているのだろうかと少しバーナビーも悲しく思う。
パシフィカルグラフィック側がきちんと状況を把握しているのかは判らなかったが、今回のチケット贈呈の背景には軍からの要請があった。
まだ注視せよという段階で具体的な危機については何らかの連絡があるわけではない。ただ、何時にも増して警戒しろというのだから恐らく今回の幻獣化騒動と関係がある問題なのだろう。
ネイサン――ヘリオスエナジーというシュテルンビルト七大企業筋の情報によると、闇ブローカーの動きが活発になっているという。
それらの動きを見越して動かせる幻獣は全てシュテルンビルトから別の水族館に移動したのが真相だというのがもっぱらの噂だそうだ。勿論シュテルンビルトに存在する水族館で幻獣を保護できる設備を伴っているのがパシフィカルグラフィックぐらいしかないという事実もあったのだが、バーナビーも多分そちらが真実なのだろうと思っていた。
今パシフィカルグラフィックに残っている数体の幻獣――特に虎徹という人魚はなんらかの囮に使われている可能性が高い。
よしんばそうだったとしてもバーナビーにはそれに反対する事ができない。反対するということは虎徹をシュテルンビルトから出すということだ。ヒーロー全員一致でそれだけは認められなかった。それに虎徹はヒーローなのだ。この扱いに元々異論を唱える要素が無い。だとすればここで一網打尽にし問題の根っこを引き抜いておくというのが一番の解決への近道なのだろう。
 バーナビーは朝から身支度を整え、招待されたマリンショーへと向かう。
初日に招待されたのはタイガー&バーナビーとブルーローズの三名、ファイヤーエンブレムとドラゴンキッドが二日目、残りの三人は三日目だという。
既にヒーローたちは上手い事自然にパシフィカルグラフィックへ訪れるローテーションが出来上がっていた。ほぼ毎日訪れているのがバーナビー、ブルーローズ、折紙サイクロンの三人らしい。ロックバイソンは一日おき程度、他の者も三日に一度は訪れてワイルドタイガーを見舞うという。
「折紙サイクロンさんはあれですね、上に来ないかって誘ってみたんですが、何時も地下一階のホールに居るんですよ」
 バーナビーは自分も気に入っているあの大ホールだと心当たる。
染み入るような青の照明が、深海を揺蕩う生物を仄かに照らしている。そこへ泳ぎよるこの世のものとは思えない造形をした美しい生き物。
折紙先輩は虎徹を見てどうしているのだろうか。僕のようにつらつらと近況を話しているのだろうか? それともただ眺めているだけだろうか。
 なんにしても開館時大体ヒーローの誰かがこの水族館にいることになっているらしく、正式な要請もないのにヒーローが常時見張っているような按配でそれは軍も歓迎しているようだ。
軍も手勢を多少裂いてはいるようだが、閉館後はともかく開館時はどうしても警備に穴が出来る。マリンショーが特に危険視されているのをバーナビーも知っていたので、斉藤とも話し合って自分がマリンショーに招待されている初日はトランスポーターを近くまで持ってきて貰うことにしていた。
「後は他に事件が起こらなければ、だな・・・・・・」
 そうひとりごちてバーナビーはブルーローズはどうするのだろうと思った。
自分は顔出しヒーローで虎徹も結局顔出しと同じ扱いになっており普段着でも活動しているが、ブルーローズを筆頭に他のヒーローたちは違う。
状況から考えて、ヒーローたちに与えられたチケットの事は公になっていない。ということはブルーローズも一般人として鑑賞に来ると思われた。
万一に備えてマリンショーの内部に居てくれということだろうが、自分はともかくカリーナという女子高生に咄嗟のヒーローとしての働きが出来るとは思いにくかった。だとすると、外部との連絡手段――直接ヒーロー回線に繋がる誰かが居ればいい――ということなのだろう。
 そして恐らく他の面子もパシフィカルグラフィックの近くに自主的に待機してくれるだろうと思う。
だとすると、後はバイヤーたちがどう動くかだ。
狙いが幻獣、――人魚であるとすると、どういった手段で奪おうとするだろうか?
バーナビーは一人考えを巡らせ始めた。




[ 168/282 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
【Novel List TOP】
Site Top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -