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琺瑯質の瞳を持つ乙女(11)


 バーナビーは虎徹を押さえながらユーリと軍代表にエドワードがザントマンとは思えないとその根拠を示した。
それに軍の代表は賞賛の拍手をし、ユーリは今回の事件についてヒーローに協力を要請せざるを得ない理由を説明した。
ザントマンの正体はいまだ不明とされているが実は最重要容疑者が上げられている事。
裏づけは取れていないがザントマンはその名の通り、砂を操るN.E.X.T.であるということ。
「多くの遺体、遺棄現場、殺害場所の特定等を行い、犯人が砂を操るN.E.X.T.であろうと鑑識が予想を出したのが2年ほど前になります。 国を跨る事からして 移動系能力者であるとも言われてましたが、恐らくエドワードのようにその能力の応用としてある程度遠距離の移動を可能としているタイプと思われます」
 ユーリは書類を捲りながら言った。
バーナビーは虎徹を促して席に着く。虎徹は尚も不機嫌そうにしていたが、犯人が判ってんならとっとと括っちまえと口の中で文句を言っていた。
「それが出来ないからこその今回のことなのですよ」
 ユーリは聞いていたらしく、虎徹の独り言に鋭く返答した。
虎徹が顔を上げる。
「何故出来ないんだ?」
 バーナビーが代わりに答えた。
「――治外法権、 その容疑者は外交官なんですね」
 キースとアントニオがバーナビーを見る。ネイサンは顎を杓って小さく溜息をついた。
「どういうこと?」
 カリーナがいい、パオリンが「そうか、拘束できないんだ」と言った。
軍の代表が苦虫を噛み潰したような顔になり、警察の代表である所長が各社にCEOに「しかもS国の大使なのです」と言った。
 S国――共産エリアの大国だ。
「物質変換系N.E.X.T.は現時点世界でも出現が稀な第三世代の希少能力者ですが、身体変化系能力者では第二世代から多少登録されています。 彼はこの身体変化系能力者なのです」
「エドワードが物体を砂状にして再構築できるのとは違って、その容疑者は 自らを砂状に変化させる能力者っていうことですね」
 バーナビーが答え、軍の代表が恐らくと言った。
「そんな映画の中に出てくる悪役みたいな能力者が実際にいるんだなあ」とキースが感心したように言うが、それも事実確認は出来ていない、S国データ上の話だから実際はどうだか判らないと軍代表が言い添えた。
誰も突っ込まなかったが、暗にS国にこちらの国がスパイを紛れ込ませているという事だったので一瞬虎徹は鼻に小じわを寄せた。
「んで? ソイツをふんじばるのにはどうすりゃいいわけ?」
「現行犯で逮捕するんです」
 バーナビーが答えた。
なんでお前が答えちゃうの・・・とまた虎徹は鼻に皺を寄せたが、バーナビーにむんずと鼻をつままれて悲鳴をあげた。
バーナビーはユーリに向き直った。
「何すんの、バニーちゃん!」
「つまり、あなた方は エドワードを囮にしたってことですね? 了承も得ずに? 卑劣だ。すぐに先輩を釈放して下さい!」
「え?」
 虎徹のみならず、ネイサン以外のヒーローたちが全員バーナビーを見た。
「ここ二年の間にザントマンの事件は減少傾向にありますが、今のお話を聞く限りザントマンは正体を知られたということで活動を自粛しているのでは? 問題の投書はザントマンの容疑をエドワードに向ける為ではないでしょうか。少なくともあなた方はそう考えてそれを逆手に取ろうとした。エドワードを餌に、ザントマンの動きを誘発させようとしたのでは? 特別外出許可を下ろしたのはその為ではないのですか」
「折紙サイクロンを護衛につけました」
 それで対応は万端だと?
「しかしエドワードは予期せずに単独行動を起こした。 その間にザントマンのしわざらしき事件を起こされてあなた方はその失態を全部エドワードのせいにしようとしたのではありませんか? 更にその尻拭いを折紙先輩に押し付けるなんて卑怯だ。 何故最初からきちんと説明して我々に協力を要請しなかったんです?」
 そういいながらこの暴虐とも言える作戦をごり押ししたのはきっと軍なんだろうとバーナビーは思って獰猛に喉の奥で唸った。
僕らは軍にいい様に扱われる消耗品ではない。 人間なのだ。 N.E.X.T.である前に人間なのだと。
「エドワードが本当にザントマンだということもありえるのです」
「詭弁だ」
「まあまあ」
 軍の代表が苦笑して間に割り込んだ。
「バーナビー君、君の予想通りだ。 我々はヒーローを見くびっていたな。さすがは常に現場で活動する専門家だ。我々は思い違いをしていたよ。その件については謝罪する。折紙サイクロンについては失態を不問に伏そう」
「エドワードは」
「彼は今黙秘していて我々に協力する意志がない」
「それはあなた方がきちんと彼に説明しないからでしょう」
「部外者に説明するほど軽い案件ではない」
「犯罪者でN.E.X.T.だからどうでもいいっていうことですか」
「そうではない」
 困ったように軍代表は手をテーブルの上で組み合わせた。
「どういえば協力して貰えるかな?」
「きちんとエドワードに現在の状況を説明し、正式に協力を要請すべきです。 民間人を囮に使うだなんてそれでも僕には許されない事だと思いますが」
「判った。 司法局側から説明させ、改めて正式に協力を要請しよう」
「先輩――折紙サイクロンは?」
「彼の能力は使える」
 暗に引き続きエドワードの護衛につけと言っているのだろうかとバーナビーは思う。
それまでじっと聞き入っていたヒーローの面々もバーナビーと軍代表のやりとりを聞いて状況を察し、いやあな気分になっていた。
「警察と軍とで容疑者の居る領事館及び彼の動向は出来るだけ追跡しているが、相手が密室から密室へ密かに移動できるのだとしたらやっかいな力だ。ヒーロー諸君にはシュテルンビルトでのザントマンによる次の被害者を出さないように警戒して貰いたい。連絡を密に取り、気配があれば直ぐに行動を起こせるように。 以上だ」
 それで折紙先輩はどうなるんですとバーナビーは尚も言ったが返答は無かった。
「・・・さてでは実際のヒーローたちの動きに関してですがこちらは司法局から各々に指示を送りたいと思っています。 まずは――」
 言いかけたところでロイズが会議室に飛び込んできた。
「すみません、大変遅れてしまい――」
「ロイズさん」
 虎徹とバーナビーが同時に立ち上がる。
「ロイズさん、助けてください、なんかこいつ等ヒデエことを――」
「ロイズさん、お願いです、折紙先輩を解放出来るように力を貸してください!」
 まるで親鳥を見つけた雛のように同時に捲くし立てる二人にロイズは勿論、ヘリペリデスファイナンスのCEOもヒーローたちも軍も警察も失笑した。
ロイズは困ったようにユーリを見た。
「で、一体何があったんです?」



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