Novel | ナノ

琺瑯質の瞳を持つ乙女(10)



 お肌が荒れちゃうわ。深夜の出動はホントは勘弁して欲しいわぁ。
朝、ヒーローの実質集会所にもなっているトレーニングルームの談話室でネイサンが言った。
ザントマン事件に軍、警察、司法局から協力するよう依頼されてから、ヒーローたちは出動がある度にこうやって後から全員集合して事件の報告とチェックをするようにしていた。しかしこのミーティングは年長組にはともかく年少組には少々厳しい事になっていた。特に昨日の出動は深夜遅くだったので年少組には辛かったろう。故郷の中国で既に大学まで出ているパオリンはともかく現役大学生であるカリーナは目に隈を作っており、虎徹に心配されていた。
「大丈夫か? ザントマン系の呼び出し以外はお前無視ちゃってていいんじゃねえの?」と言う。
「だって、そんなわけに行かないじゃない。どれがザントマンと関連してるのか行ってみないとわかんないし」
 キースが昨日のあれは違ってたんじゃないのかと言った。
「あれはなんだっけ、人形工場だったんだろう? 結局強盗だったのか単なる不審火だったのかも良く判らないじゃないか」
 最初の通報はどうなってたのかと聞くと、工場の火事? かなとパオリンが言った。
「なにやら高価な人形なんだってね。美術品や宝石なみの価値を持つとかで、割合盗難が多いから念のため強盗事件とみなして我々が投入されたんだろうけど、結局盗まれた物はなかったのだろう?」
 盗まれた物は無かったらしいですが、工場製でも特別生産品である高額の人形が数十体破壊されていたそうです。宝石が少々無くなってるんじゃないかって話もありますが、詳しくはまだ良く。
「あの火事は結局不審火のまま?」
「人形が破壊というか一部破損させられたっていうのかな? それがあるんで侵入者が居た事は間違いないですよ。その不審火は侵入者が放ったものなのか、工場内でのトラブルなのかはまだ調査中みたいです」
 バーナビーは考え込むようにして言った。
なんでもいい、ちょっと今日学校無理だわ、私仮眠室で寝てきてもいいかなとカリーナが欠伸をしながら言うので、虎徹とパオリンがいいよと言った。
「何かあったら起こしてやるから寝てこいよ」
「そうしなよ、ブルーローズ唇が紫色だよ」
「えっ、ウソ!」
 寝る、ちょっと本気で寝る。
そういいながら仮眠室に向かおうとトレーニングルームから退出しようとしたカリーナは、入ってきたイワンと正面衝突しそうになった。
「きゃっ・・・、って折紙!」
 ちょっと貴方大丈夫だったの?!
カリーナとパオリンがイワンに飛びついた。ネイサンが眼を丸くしている。
虎徹とバーナビーもぎょっとした。心配してなかったわけではないが、イワンにかけられた嫌疑と状況が状況だけに中々解放されないのでは、少なくともザントマン事件に決着がつくまでエドワードと一緒に監視対象――いや今回の作戦のスケープゴートにされたのではと思っていただけに、唐突なこのヒーロー復帰に驚いたともいう。
キースとアントニオも複雑な顔してイワンを見て、それから互いに顔を見合わせた。
 一瞬の沈黙。
「あ、あの・・・、ご迷惑をおかけしました・・・」
 別に迷惑なんてかけられてないわよ。 それより折紙、聞いていい?
ネイサンが言う。
「聞いていいとは」
「釈放されたわけは?」
 ストレートに聞くなあとバーナビーがネイサンの横顔を見る。
ネイサンは右手で左手の肘の部分を押さえ、左手は神経質そうに自分の頬を撫でていた。
 イワンはじっとネイサンを伺うように見ていたが視線を逸らして「ええ、まあ・・・」と言った。
 司法局も軍も警察もザントマンがエドワードだとは思ってないようです。 まあそれは当たり前ですよね・・・。 実際時期が合いませんから。
エドワードがあの殺人を犯す事件より以前からA州ではザントマンによると思われる被害者が存在していたわけで。
「軍や警察、司法省のみならず、A国、F国、D国はザントマンらしき容疑者を絞り込んで把握しているようですね」
「・・・・・・」
 それまで黙ってイワンを見ていた虎徹がはあっと息を吐き出して右手でがりがりと頭を掻く。
「お前さ、それ了承したわけ?」
 簡単に言うと司法局と軍と警察にお前らハメられたんだぞと言う。
「エドワードが・・・・・・その、単独行動を取る、というのは僕もですが――誰も予測してなかったわけで・・・。 エドワード自身もそういう理由で今回外出許可をおろされたって知らなかった訳で――・・・」
「事後承諾だよなあ・・・」
 アントニオとキースもはあっと深いため息をついた。



[ 108/282 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
【Novel List TOP】
Site Top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -