セピア 第七話




 7年の歳月も過ぎればあっという間だった。
 しいなは振り返る。7歳で起こったあの事故。8歳でゼロスと出会った。9歳で離れ、15歳で再会。それからの7年――たくさんの出会いと別れがあった。
 19歳のときがいちばん忙しかったと思う。ロイドたちと出会い、コリンと別れ、くちなわの裏切りに遭い、シルヴァラントとテセアラを統合した。間もなく20歳になりミズホの頭領になる。21歳になって、エミルやマルタと出会い、再び世界を救った。
 あれからまだ数ヶ月。先の騒乱のときヴァンガードに場所を知られてしまったミズホの隠れ里は、大移動の準備を始めていた。ヴァンガード自体は事実上の解散を余儀なくされ残党もわずかだが、念には念を入れて移り住むことになる。新天地はやはりテセアラ王国の領内だ。

「…で、あんたは何しに来たのさ。悪いけど、相手してる暇はないからね?」
「茶ー飲みに来ただけだからお構いなくー?」
 腰に手をあててしいなが凄んでも、ゼロスはあぐらをかいたままである。
「お茶をせがんだ時点でお構いなくも何もないよ! 手伝う気もないなら帰りな!!」
「耳元で怒鳴るなよ…」
 ぎろりとゼロスを睨み、自室の片付けを始める。
「…陛下のお遣いだよ…。詳しい引っ越し先聞いてこいってな」
 しいなが顔を上げた。
「嘘だね。陛下にだって隠れ里の正確な場所は教えないんだから。あんたたちに教えるのだって、本当はいけないことなんだよ」
「つれねーこと言うなよ。未来の旦那さまだぞー…いだっ!」
「誰が!」
 問答無用でゼロスを殴り、しいなは再び片付け作業に戻る。
「…教えてくれんだろ?」
 手を止める。ゼロスの真剣な眼差しを受けて、しいなは溜息をついた。
「そのために来たんじゃないのかい?」
「まーな」
「手伝ってくれるならね。あ、今はいいよ。力仕事だけやってくれたら」
「…うげ…」
「嫌ならいいよ、あんたには教えないから。まあ、旅を続けてるロイドたちやジーニアスたち、物資面で援助してくれるリーガルや、木の伐採があったら手伝うって言ってくれたプレセア、困ったことがあったらいつでも呼んでって言ってくれたエミルたちには教えるけどね?」
 ゼロスはむすっとする。
「…俺さまだけ仲間外れかよ。俺さまだっておまえらにいろいろと貢献したじゃねーか…」
 ぶつぶつと恨み言を呟く様子が子供のようで、しいなは苦笑いした。25になるというのに、この男は…。
 俯いてしまったゼロスの前に膝をつき、しいなは顔を覗き込む。
「大の男が拗ねるんじゃないよ、まったく。あんたが和平の使者なりなんなりでミズホに仕事を回してくれたおかげで、今あたしたちがここにいられることくらい解ってる。これでも感謝してるんだからね?」
 ゼロスが顔を上げた。
「だから機嫌直しなよ。うっとうしいから」
「おま…酷くね?」
 上がりかけた気分が見る見る下がる。しいなは笑って立ち上がった。
「メソメソしてんじゃないよ。明るいのがあんたの取り柄だろ? まあ元気過ぎてもうるさいけどね」
「……んだよ、もー。ちょっとくらい優しくしてくれたっていいだろーが」
「はいはい。優しく、ね」
 頭を撫でる。ガキじゃねーんだから、と俯いてしまったが、その耳がうっすらと赤くなっているのを見てしいなは口元を緩めた。
「さ、優しくしてやったからあとは知らないからね?」
 笑いをこらえながらしいなは作業に戻る。服はもともとそんなに持っていない。書籍や書類はまとめてある。調理器具はあとにするとして、机を片付けようか。

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