「新年早々、ケンカは止め止め。それでいいね?」
 ゼロスは頭を掻く。おろちはばつが悪そうに頷いた。

 しいなは再び溜息をつく。このところ、ゼロスとおろちは仲が悪い。顔を合わせる度にケンカしている。ゼロスはともかく、ふだん冷静沈着なおろちもムキになるのだ。理由など、しいなには皆目見当もつかない。



 3人は並んで歩き出した。お参りは済ませたので、境内の道を外に向かって歩き出す。
 しいなの歩幅は小さい。ミズホの盛装、振袖を着ているからだ。この盛装を見たときも一戦あった。初めてしいなの振袖姿を見て喜んだゼロスに、おろちは去年以前の振袖の柄を教えて張り合ったのだ。
 考えごとをしていたせいか、案の定、小石につまづく。それを両サイドからふたりの男が同時に支えた。
「ご、ごめん」
「ぼーっとしてんなよ」
「考えごとをしているからだ」
 謝るしいなに、男ふたりの声が重なった。もしかしたら、このふたりは似た者同士かもしれない。
 段差を目の前にしたしいなに手を差し延べたのは、ゼロスのほうが早かった。こればっかりは流石と言うべきであろう。しいなは遠慮なく手を重ねた。
「ありがと」
「滅相もない、姫」
 その様子を黙って見ていたおろちは、しいなの腰に軽く手を添える。
「おろちも、ありがとね」
「構わん」
 わずかにゼロスがむっとしたが、何も言わなかった。
 段差を乗り越えて顔を上げる。しいなはこちらに向かって来る影に笑いかけた。
「おじいちゃ…、頭領。大丈夫ですか?」
 おじいちゃん、タイガおじさんと慕う、ミズホ頭領と副頭領。頭領イガグリ老は12年間続いた眠り病から目覚めたばかりであった。
「今日は天気もいいしのう。願い事をしに来たんじゃ」
「どうしてもと聞かなくてな。仕方なく連れて来たのだ」
「…私もご同行致しますか」
 おろちの申し出を、イガグリ老はやんわり断る。
「ワシには構わんでよい。タイガもおるしの」
「無理すんなよ、じーさん」
「ほんとだよ、おじいちゃん。まだ本調子じゃないんだから…」
 あくまでもくだけた口調のゼロスや、気を抜くとすぐに立場を忘れて距離を詰めるしいなに優しく笑いかけた。
「ほっほっ、心配かけてすまんのう。おまえはおまえで楽しく過ごせばよい。おろち、しいなを頼むぞ。ゼロス殿、またしいなに会いに来てやってくだされ」
 おろちは短く応えて頭を下げ、ゼロスはにやりと笑った。


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