お互いに片想い 〜ex-girlfriend〜



 コレットがさらわれた。失態だった。
 鉱山に現れたのはクラトスと、ユグドラシルという天使だった。そいつがあたしたちの敵クルシスの頭だった。
 冷たい目をした男だった。あたしたち人間を虫けらとしか思っていない目。ぞっとした。
 悔やむロイドをたきつけ、あたしはコレットの居場所を探るべく、単独行動を取ることにした。アルテスタの家には戻らず、レアバードを一機借りて、情報収集に乗り出した。
(ゼロスと交わした、鉱山から戻ったら料理を作るという約束は破ってしまうことになるけれど、仕方がない)
 とは言うものの、相手は天使。そう簡単に居場所が掴めるはずもなく、落ち込んでいたあたしに、コリンから提案があった。
 ミズホの仲間たちに頼んではどうかと。
 あたしは悩んだ。ミズホは故郷だ。帰りたい。でも、怖い。あたしは、あたしの罪と向き合うのが怖い。
 それでも今大切なのは――。

 あたしは、何のためにロイドたちを――コレットを、テセアラに連れて来た?
 天使になっていくコレットを目の当たりにして、それに己の無力さを感じて苦しむロイドを目の当たりにして、何を思った?
 純粋にコレットを救いたくて、純粋にロイドに協力したくなっただけじゃない。ゼロスとあたしを、ほんの少しではあるけれど、確かに重ねた。

 決意までに、それほど時間はいらなかった。あたしはミズホに向かうことにした。



 鉱山から戻ったロイドが最初に見たものは、アルテスタの家の前の大木に縛られた、見たことのない男だった。プレセアの機械的な手当てを受けた傷だらけのゼロスが、自分を襲ってきた賊だと説明した。何故かプレセアを知っていたことも。
「で、コレットちゃんとしいなはどうした」
 鉱山に向かった全員が暗い表情で沈黙した。最初に口を開いたのはリフィルだった。
「コレットはクルシスの手に落ちたわ」
「…はあ? マジかよ」
 ロイドは唇を噛む。それをちらりと見て、ジーニアスが続けた。
「しいなは…、コレットの居場所を探すから単独で情報収集するって」
 無事らしい。内心ホッとした。
「…そーか」
 ゼロスはシーツに視線を落とした。
 俺は、卑怯者だ。そう思う。ロイドたちが鉱山に向かうことをクルシスに伝えたのは自分だった。そのくせ、しいなが無事だったことにこんなにも安堵している。身勝手もいいところだ。
 しいなに告白したときもそうだった。受け入れてくれたならそれで良し、受け入れないにしても、その理由をもって恋愛することを躊躇するようになるだろう、しいなは誰のものにもならないはずだ――それを見越していた。どちらの答えを出しても、自分に損のないようにうまく導いた。
 だから、しいながロイドに惹かれたことは、誤算だった。それでも哀しくはなかった。自分との腐れ縁は、切れない自信があったからだ。
 プレセアが木を切りに出かけ、ロイドとアルテスタが要の紋制作に取り掛かり、リフィルが調理を始めジーニアスは雑談していた。ゼロスは空腹を抱えながら、約束を守らなかったしいなを少し恨めしく思った。



 ミズホ頭領の屋敷で、タイガ副頭領の立ち会いのもと、あたしはユアンとその部下ボータと向かい合っていた。
「…以上だ。よって、おまえに協力を要請したい」
 コレットの居場所を教える代わりに、ミズホの秘術で協力してほしい。そのためにあたしを待っていたとユアンは言った。コレット奪還はレネゲードにとっても必要なことらしい。
 救いを求めるように副頭領を見たが、瞑想するように目を閉じたまま黙っていた。
 コレットが囚われた飛竜の巣に奇襲をかけるには、雷の精霊ヴォルトの力が必要だという。召喚術を受け継ぐあたしに、ヴォルトとの契約を迫ってきた。
「…どうだ」
 飛竜の巣にはクラトスがいる。奴の強さはコレットを暗殺しようとしたときで充分身に染みていたし、鉱山でも歯が立たなかった。ユアンの提案を受けることが得策なのは解っている。それでも。
 膝の上で握られた拳の震えを必死で抑えながら、あたしは答えた。
「…ロイドたちに、相談してから決める。あたしの独断で受けることは出来ない」
 ユアンは眉ひとつ動かさなかった。答えは読めていたのだろう。
「承知した。ではそれまで返事は待つとしよう」



 夜を明かしてすぐ、逃げ出すようにミズホを出、レアバードでアルテスタの家に向かったが、ロイドたちはいなかった。
 アルテスタは多くを語らなかった。ただ、プレセアが心を取り戻したことと、皆がテセアラ城に向かったことだけは教えてくれた。夕食時には帰ってくるらしい。あたしはゼロスとの約束を果たすために、近くのオゼット村まで食料の調達に向かった。
 夕食の準備が出来上がる頃、みんなは帰ってきた。

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