ジーニアスとプレセア、ロイドとゼロス、リフィルは見知らぬ男性とレアバードに乗っていた。
「しいな!」
 ロイドとジーニアスの声が重なった。手を振るふたりに手を振り返す。
「コレットの居場所が解ったのか?」
 レアバードを降りて駆け寄って来るロイドが聞いた。次いでジーニアスとゼロスが歩み寄る。その後からプレセアが来た。
「うん…、まあね。食べながら話すよ」
「そうか! やったな!」
 ロイドの喜びように後ろめたさを感じる。
 ジーニアスが鼻をヒクヒクさせた。
「…いい匂い」
「しいなが作ったのか?」
「うん」
 ゼロスがにやりと笑う。
「お、久し振りだな」
「しいなは料理うまいのか?」
 ロイドがゼロスに聞いた。
「おー、絶品だぜ。ま、食えば解る」
「誉め過ぎだよ」
 あたしは苦笑いした。
「早く食おうぜ」
 気をはやらせアルテスタの家に走り出すロイドとジーニアスに目を細めながら、あたしはプレセアを見た。胸元で要の紋がきらりと輝いている。少し前屈みになり、視線を合わせた。
「プレセア…よかったね」
「…はい。ありがとうございます」
 少しためらいを感じた。
「プレセアー! 早くおいでよ!」
 手を振るジーニアスに、プレセアは視線を向けた。立ち去る小さな後ろ姿にあたしは首を傾げる。
「…いいことばっかりじゃなかったんだよ」
 あたしはゼロスを見上げた。子供たちがいなくなったところで、リフィルと見知らぬ男が近付いてきた。
「…新顔だね。あたしはしいな。藤林しいな。あんたは?」
「…私は、リーガル・ブライアンだ」
「リーガル…」
 手錠を見る。罪人のしるし。
「知ってるか?」
「えっと…、名前を聞いたことあるようなないような…」
 ゼロスはうなだれた。
「…ま、おまえは当時11歳だからな」
 暗い表情をしているリーガルに、ゼロスが簡単に説明する。
 8年前にレザレノ・カンパニーの御曹子が使用人の少女を痴情のもつれから殺害し、服役していたこと。エクスフィアに支配され化け物になった少女を、その愛から殺さざるをえなかったこと。その少女はプレセアの妹アリシアだったこと。教皇から脅されてゼロスを襲う刺客になったこと。真実を知って怒りに支配されたプレセアと、覚悟を決めたリーガルの前に、奇跡が起きたこと。そして、ロイドが自らの母親のことを持ち出し、ふたりを説得したこと――。
 あたしの頬をはらはらと涙が伝った。
 そんなあたしを見て、大人3人は同時に口を開いた。
「おまえは優しいよな」
「あなたは優しいのね」
「しいなは優しいのだな…」
 顔を赤くする。あたしはごしごしと涙を拭った。
「だって…ロイドもリーガルも、プレセアも辛いだろうに、あたし、よかったねだなんて言っちまって…」
「あなたは知らなかったんだもの。仕方ないわ」
 リフィルが優しく諭す。
「ほれ、もう泣くな。ロイドたちが心配するぜ」
「うん…」
 もう一度、きゅっと涙を拭う。
「あと、プレセアちゃんに謝ったりすんなよ。余計しんどくなるからな」
「……うん」
 あたしは頭を垂れた。自己嫌悪。その頭をゼロスがぽんぽんと叩く。
 それを見ていたリーガルが、踵を返したあたしを止めた。
「…しいなは、藤林しいな、と言ったな?」
「ああ…言ったけど?」
「もしや、ミズホという部族出身か?」
「そうだよ。それがどうかしたのかい?」
 リーガルは沈黙してゼロスを見た。ゼロスは何故自分を見るのかと訝しそうにしていたが、すぐに意味が解ったらしく不敵に笑った。
「しいなー! 早く食べようぜ!!」
「今行くよ!」
 待ちきれないロイドに会話を中断し、あたしはアルテスタの家に戻った。



 しいなの後ろ姿を見送り、リーガルは話の続きを始めた。
「成程、あれが噂の…」
「いい女だろ。俺さまのハニーだからな。しっかし、あんた獄中にいてよくあの噂知ってたな?」
「牢の中でも情報は流れているものだ」
「噂、とは?」
 話についていけないリフィルがやっと話に口を挟んだ。ゼロスは口端を持ち上げた。
「しいなが俺さまの女だって噂だ。正確には、俺さまがミズホ出身の女にいれあげてるって話な」
 リフィルは呆れた。
「もちろん事実無根だぜ。しいなは貢がれて喜ぶ女じゃないしな」
「確かにね」
 ゼロスもリフィルも肩をすくめる。
「ミズホの女性に関しては、確か婚約者説もあったろう」
「…俺さま、その説のせいで、しいなに殺されかけたことがあるんだよな…」
 リーガルの言葉にゼロスは頭を掻く。
「普通に、ただの恋人説もあったな」
「あった。それで殴られた」
 リフィルは深い溜息をついた。
「しいなも難儀なことね。で、実際はどういう関係なの?」
「…リフィルさま、意外とゴシップ好き?」
「面白いならね」
 ふと視線をリーガルに移すと、心なしか彼も目を輝かせている。ゼロスは半ば観念したように嘆息した。

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