星 の 戯 れ
`I love you' that I could`nt say.
なんだろう
いつものように裏庭に行くと、いつもとは違う光景がそこにあった。
いつもある姿がない。だがよく見ると、柵の向こう側でわずかに動く影がある。
近寄ってみるとその影は倒れているあの人だと分かった。
放っておけばいいのに、頭では分かっている。だけど心臓が嫌な音を立ててオレをその場から動けなくする。
ふいに頬を撫でた風が少し冷たくて、オレは我慢できず近くの木を踏み台に、いつもあの人がいる場へと飛び移った。
急いで様子を確認すると、彼女は規則的な呼吸を繰り返していた。
(寝、てる……?)
…なんだか気が抜ける。毎晩あんな時間まで起きてるから寝不足にもなるんだ。
閉じられたまぶたのせいであのアーモンド色は見えない。でもいつもよりハッキリ見える姿に、一度ほっとしたはずの心臓が変に跳ねる。
このままじゃ風邪をひいてしまうだろう、とそっと彼女の身体を抱き上げる。
人ひとりの重さなんて、吸血鬼には大したことない。だけどその大したことない重みが、儚く壊れやすいものだと分かっているからこそ、彼女に触れている手が緊張している。
「…………ん、…」
腕の中で身じろぐ彼女。起きてしまっただろうか。
「……あれ…わたし…」
「…外で寝てたから。風邪引きたいの。」
まだ寝ぼけているようだ。少しだけ開いた瞳はなんどもまばたきを繰り返している。
初めて聞く声は、やっぱり普通のニンゲンと変わらない。普通に会話を続けていく。
「…そっか……やっぱ、寝不足…」
「毎晩あんな遅くまで起きてるからでしょ。」
「うん…、だって、……眠れない、んだもん………」
「え?」
再び聞こえるのは呼吸の音だけになる。
彼女の身体をベッドに下ろして見ると青白い彼女の顔に気づく。
眠れない、って…もしかしてあの時間まで起きているわけじゃなくて、あの後もずっと、一晩中起きているのだろうか?
答えは、ない。
「お礼。」
オレはポケットに忍ばせておいたものをベッドサイドに置き、彼女の部屋を後にした。
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