小話
照れを恐れるように、挑むような目で彼は真っ直ぐにこちらを見つめた。
この時間、あなたは僕のもの。
あなたはとても魅力的だから、いつも飛び立つ。
帰る場所は僕のところではないけど、たまにふらりと立ち寄るくらいには。
きみの心に居場所があると信じている。
comment:(
0)
2018/07/26 00:29「友達はいない」
にこにこと笑いながら言う彼のなんと痛ましいことか。
――俺が友達になる。
そんなこと、言えるわけがない。
彼への冒涜だ。
「ならさあ、恋人になる」
ぱちりと彼が大きく瞬きをする。
「俺、恋人になりたい」
畳みかけると彼の瞳が揺れた。
大切な人は作らない。友達を作らないという彼の真意はそこにある。
どうやって俺の言葉を断ろうかと考えあぐねているであろう彼に、俺の決意を告げる。
「恋人に夢中ならさ、友達がいなくてもいいじゃん」
これは、友達いない宣言をしながらも気の置けない友を持つ、俺の自慢の「親友」の話だ。
comment:(
0)
2018/06/10 23:35 そうか。
このざわつきは「さみしい」のか。
「そうそう。もうちょっと信用してよね」
瑞樹は苦笑いをして僕の頬を突く。
「きみはきみが思うより,愛されてるんだから」
「お前に?」
「うーん」
はずれじゃないけど。
あたりでもない。
賢いきみらしくもないな。
――そう言って柔らかくこちらを見つめるものだから。
「僕を愛する物好きはお前だけだ」
世の中の多くを信じているであろう瑞樹にはわからないだろうが,秋一にとってはみんな敵だ。
「たとえ俺がいなくなっても,きみを大切に思う人はたくさんいるから。覚えておいてね」
「僕を捨てるのか」
「そういうときが来るかもしれない」
ならそのときは。
「誰のことも信じなくなるだろうな」
瑞樹でさえ,この心の関を許すのにどれほど時間が掛かったことか。
そして胸がざわつく。
「ほらね」
瑞樹がくすぐったそうに笑う。
「それが,「さみしい」なんだよ」
「誰かと思えば」
言いながら笑いを堪えきれなかった瞳でふんわりとこちらを見遣る息吹を,棘を隠そうともせずに睨んだ自分を責める者はいないだろう。
「誰だと思った?」
「知り合い以外だと思ったよ。だってそうだろう」
「知らない。わかんない。だって僕はここにいたキミを知らないから」
答えを探しあぐねるように息吹が首を傾げた。
好きだ。
かつて覚えた思いがオーバーラップし,彼の言葉でぱちんと弾ける。
「そんなに俺に会いたかった?」
「自惚れないで」
「そうだね。ごめん」
距離を詰めようとしない息吹に近づくのは簡単だ。
でもその瞬間の代償は見当もつかない。
「ねえ由正。俺ねえ,由正のことを忘れる時間の方が長かったよ」
「皮肉か」
「事実。由正だってそうでしょう。寝ても覚めてもなんて,考え続けられるわけがない。仕事中,ご飯を食べてるとき,布団の中,別のことを考えるときの時間の方が圧倒的に長い」
「だけど,僕のことを思い出す一瞬はあったわけだろう」
息吹の顔が苦痛に歪む。
大丈夫。
大丈夫だ,息吹。
「別れよう」
言えた。
裏切られた,という衝撃を露わに息吹が由正を見つめる。
「それを言いに来たの?」
「そう」
comment:(
0)
2018/04/17 23:17 驚いた。
あなた,そっくりよ。
――その言葉はとうに聞き飽きた。
だけど言わずにはいられないのだろう。
ある者は後悔,ある者は思慕を滲ませて目を細める。
「僕を見て」
その言葉は届かない。
comment:(
0)
2018/04/04 23:00