小話 | ナノ



 
 俺の彼氏はとてもモテる。
 本人はそれを自覚している。
 周囲も知っている。
 自他ともに認めるというやつだ。
 そして,最後に連れていかれるのは,俺だけ。
 俺だけが,あいつの彼氏。

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2018/03/20 22:32


 
 その不自然さに気づいてしまった。
 だからなぜ名前を呼ばないのか,訊いたことがある。
 彼はにこりと笑った。
「それが自然だからです」
 その答えこそが自然だと言うように,彼はそれ以上の言葉を重ねない。
 そして,もうひとりの彼に訊いた。
「呼ばれたくない相手が,いるでしょう?」
 困ったように,しかし誠実に,もうひとりの彼は言った。
「でもあなたが愛していることは私でもわかる」
 もうひとりの彼は,やはり困ったように笑った。

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2018/03/09 21:20


 
 『結婚する』
 そのメールが届いたとき味わった絶望は,想像より遥かに苦かった。
 大丈夫,大丈夫だ。
 ちゃんと,祝える。手放せる。
『おめでとう』
 返信した後,顔を覆った。
 決めていた。
 もうきみの名を呼ぶことはない。
 その名に特別な想いを乗せて呼ぶのは僕ではない。
 何度も覚悟した。
 彼の名はもう,呼べない。

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2018/02/24 00:22


 好きが届くうちに
好きが届くうちに、言いたい。
言葉は惜しまない。
だから、諦めないで。
口をぽかりと開けて、思いを逃がすなら、俺にください。

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2017/12/29 02:48


 忘年会
 葵の父が言うには,同窓会を兼ねた忘年会をするらしい。
「誰が行くの?」
「私と恭介と,暁と草場と秋一と柚葉」
「ふうん」
 本から目を上げることなく言う真司に葵は何も思わなかったが,薫は違ったらしい。
「朝陽は?」
「いや,同窓会だろ」
 葵が止めに入るが薫は淡々と続ける。
「そりゃあ,お父さんたちはいいかもしれないよ? 自由に忘年会。だけど朝陽はまだ那由多くんも小さいしさ,自由が利かないんじゃない?」
「つまり草場にも不自由でいろと?」
「そうじゃないけど」
 うまく言葉にならないらしい弟がもどかしそうに口を開閉させる。
「じゃあ,恭介に相談しよう」
 葵の提案に薫は頷いた。
 父はというと面白そうに目を眇めて息子たちを眺めていた。


「え,妻子連れで?」
 葵と薫に相談された恭介は困惑したように手を口元に置く。
「そう。嫌?」
「嫌って言うか……。うちの奥さん,嫌がるかもしれないですね。子どもを酔客がいるところに連れていくの。朝陽ちゃんところも千秋とあまり変わらないし……」
 葵と薫の気持ちに配慮しつつ,現実問題として手放しに賛成するわけにはいかない。
 そんな様子を見て取った葵は弟を小突く。
「自由参加にしてみる?」
「奥さん子どもを連れていきたい人はおっけーですよ,って?」
「そうそう」
 そのとき恭介は吹き出した。
「もしそうなら,葵くんたちにも参加する権利が発生しますね」
「あ,そうだ」
「確かに」
 今,気づいた。
 薫も同様だったようで,俯いてしまった。
「じゃあさ,子連れ参加おっけーで,子どもの面倒は俺たちが見るっていうの,どう?」
 我ながらいいアイディアだと思う。
 薫が弾かれたように顔を上げる。
「どうせ俺たち,飲めないしさ」
「じゃあ,もし子連れの場合は,葵くんたちが面倒を見てくれるってことで,連絡回していいかな?」
「お願い」
「ありがとう」
 恭介は飛びつくように言った薫と,控えめだが嬉しそうに礼を言う葵を見て目元を緩めた。


 真司は息子たちから報告を聞くより前に恭介の連絡を見た。
 葵と薫は真司たちと同じ場所にいたかったわけではないということはわかる。
 まあ,いずれは葵たちも家庭を持つ。
 何事も経験だと思い,真司は息子たちの名とともに参加の返事をした。
「子どもの面倒を俺たちが見るなら,恭介,いいって」
 ただいまも言わずに勢いをつけて話す薫とそれを穏やかに見ている葵を見て思う。
 僅かながらでも成長はある。


 忘年会当日。
 一番最後に会場に着いた恭介はその光景に目を細めた。
 暁と悠太は何やら悪だくみをするようににやにやと笑いながら何事かを話している。
 秋一は千秋を,梓沙は瑞貴を膝に乗せて柚葉と談笑している。
 葵,茜,薫は那由多をあやしながら朝陽に助けを求めている。
 そして真司はそれらを眺めながら,ひとりでコップを傾けていた。
「隣,いい?」
「ああ」
 平和だ。

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2017/11/25 22:17


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