シルヴェスターの部屋を出る。有益な情報は手に入らなかった。それどころか、クリスを探すことを止められた。
 当たり前のことだとエルヴィンは理解しているのだが、納得はできない。どうしても、クリスを探したかった。
 そして、スティーヴンから渡された紙は、シルヴェスターに見せた後エルヴィンが持つように言われてしまった。どうすればいいのか、エルヴィンにはわからなかった。
 部屋へと戻る途中、ライナルトに声をかけられる。どうやら、心配してくれているらしい。友の励ましに、エルヴィンは少し心が楽になった。
 ひとまずは、休むことにする。ベッドに横になり、エルヴィンは浅い眠りについた。

 朝から、エルヴィンは仕事をしながらクリスのことを探していた。周りは、エルヴィンに対しほとんど何も言わない。そのことが、エルヴィンにはありがたかった。
 見回りをしながら、エルヴィンはクリスを探した。特に、初めて会った場所は念入りにだった。それでも、クリスの面影すら見つかることはなかった。

 夕方。街の見回りも一通り終わり、そろそろ本部へと戻ろうとした時だった。
 誰かが、倒れているのを見つける。一瞬、エルヴィンはクリスかと思った。しかし、倒れてる人物はクリスとは違う髪色をしていた。
 髪の長い、女だった。クリスじゃないことに落胆するが、ここで倒れているのを見過ごすこともできない。
 エルヴィンは、女を連れて本部へ戻ることにした。

 倒れていた女は、現在エルヴィンの自室にいる。数時間ぶりに部屋に人がいるということに、なぜかエルヴィンは安堵していた。
 シルヴェスターには、報告してある。仕事もひと段落したため、エルヴィンはまだ目覚めぬ女を見守っていた。
 ふいに、女が目を開ける。そして、エルヴィンの方を見た。
 女は驚いた表情をし、勢いよく起き上がる。女は、エルヴィンから逃げようとした。
 しかし、エルヴィンはそれを強引に引き止める。なんとなく、彼女が心配だったのだ。
「何をする」
 女は、エルヴィンを睨みつける。エルヴィンは気にせず、ただ大丈夫かと問いかけた。
「人が倒れていたのだ。心配するのは当たり前だろう」
 エルヴィンの言葉に、女は困ったような顔をする。パッと見た感じでは、どこも怪我らしい怪我とかは無い。しかし、女の服の陰から傷や痣が見えたのだ。
 何も言わない女に、エルヴィンは小さくため息を吐いた。別に、無理して何かを聞き出したい訳でも無い。エルヴィンを怪しんで、何も言いたく無いのかもしれない。
 さて、どうしようかとエルヴィンが悩んでいると、女がここはどこかと聞いてきた。
 エルヴィンは、素直に軍の本部、そしてエルヴィンの自室だと答える。女は、少し驚いた顔をした後、何も言わなくなった。
 どうしたのかと尋ねる。しかし、女は何も言わない。困ったエルヴィンは、ただため息を吐くだけだった。
 まだ、エルヴィンは夜ご飯を食べていない。彼女も腹を空かせているのだろうかと考える。クリスを拾った時は、彼女は腹を空かせていた。彼女も同じかはわからないが、無いよりはマシだろうか。エルヴィンは、ご飯を取りに行くとだけ女に言う。そして、食事を二人分取るために部屋を出た。

 いなくなるかと思ったが、女はエルヴィンの部屋にいた。そのことに少し安堵し、エルヴィンは持ってきた料理を女に手渡す。女は、ただ黙って食事を見つめていた。
 エルヴィンは適当に食べろと言う。女が、エルヴィンの方を見た。彼女は何かを言おうとしていたが、声は聞こえなかった。
 無言で、女は食べ始める。それにエルヴィンは満足し、自分も食べ始めた。
 無言の時間が続く。食べる音だけが、部屋に響いた。
 女が食事を終えたのを見て、エルヴィンは少し安心した。そしてふと、クリスは、よく食べていたと思い出す。女に、クリスの面影を探していた。
 クリスがいないことに動揺している自分に笑いが出てくる。こんなことなど、今までなかったのだ。
 女を見て、エルヴィンは思う。彼女とクリスは違う。似てるところなどどこにも無いのだ。
 そんなエルヴィンの様子を、女は怪訝な顔で見てくる。エルヴィンは女になんでも無いと言い、食器を片すことにした。
 女は、何も言わなかった。

 次の日。エルヴィンは、女に仕事に行くことを告げて部屋を出た。好きにいていいとも伝えた。女は、やはり何も言わなかった。
 そしてエルヴィンは、同じようにクリスを探しながら仕事をする。相変わらず、クリスの気配はひとかけらも感じられなかった。
 それでも、エルヴィンは諦めずに探し続ける。どこかに、クリスの情報があると信じて。
 しかし、無情にも時は流れるだけだった。

 仕事を終えて、エルヴィンは部屋へと戻る。女の様子を見ようと思ったのだ。
 しかし、部屋に戻ると女の姿が見えない。また、クリスのように連れさらわれたのかとエルヴィンは思った。
 しかし、机の上に手紙が置いてある。適当にちぎったような紙だ。何かと思い、エルヴィンは手紙を読んだ。
『何も聞かないでくれたり、優しくしてくれてありがとう、とても嬉しかった。あなたは私の恩人、これ以上は迷惑をかけたくない。だから、探さないで』
 書き慣れていないのか、拙い文字であった。しかし、エルヴィンは彼女の気持ちを理解し、尊重しようと思った。
 何かあれば、また会えるだろう。不思議と、そう思えた。
 誰かが部屋をノックする。返事をして、中に入ることを促した。
 入ってきたのは、エルヴィンの部下だった。要件を聞くと、彼は元帥がエルヴィンを呼んでいるのだと教えてくれた。
 一体何事だろう、とエルヴィンは思う。クリスのことについて何かわかったのだろうかと僅かに期待する。しかし、すぐにそんなことではないと否定した。
 呼んでくれた部下に礼を言い、エルヴィンは元帥の部屋へと向かう。不安な気持ちを抱きながら、エルヴィンは足を進めた。

 緊張しながら、エルヴィンはノックする。すぐに、どうぞという声が聞こえた。
 一呼吸おいて、エルヴィンは中に入る。シルヴェスターが、柔らかい笑みを浮かべてエルヴィンを迎えた。
 二人は挨拶をそこそこに、本題へと入る。シルヴェスターが、エルヴィンを呼んだ理由。エルヴィンは、クリスのことを言われるのかと身構えた。
「君に、行って欲しい場所がある」
 重い口調で、シルヴェスターが言う。エルヴィンは、それを黙って聞いていた。
「実は、王宮からパーティの招待状が来ててね。私は、今手が離せなくて」
「それで、俺ですか」
「ああ」
 シルヴェスターの言葉に、エルヴィンは納得する。確かに、忙しいシルヴェスターの代わりに出席するなら義理ではあるが彼の子である自分が適任だ。
 それに、王宮ならもしかしたらクリスのことも聞けるかもしれない。
「わかりました。その話、受けます」
 エルヴィンの答えに、シルヴェスターは申し訳なさそうな顔をする。これは仕事なのだ、なぜ彼がそんな顔をするのかエルヴィンにはわからなかった。
 そして、エルヴィンはシルヴェスターから必要な物、日にち、行く場所をなどを確認する。パーティなどは仕事の関係でたまに行くが、エルヴィンは普段そういった場所にはあまり近寄らない。そのため、なるべく念入りに確認した。
 たまに、王宮へ招待されることはある。しかし、それは主に王宮の警備がほとんどだ。エルヴィンも、警備の仕事で二、三回行ったことはある。だが、中に入ることは仕事上必要なかったので一度もなかった。

 シルヴェスターの部屋を出て、エルヴィンはふと思い出す。王宮へ行く日にちは、ミエスが落としたであろうメモに書いてあった『一週間後』と一致していたのだ。
 何か嫌な予感を感じ、エルヴィンは自室へ戻ることにした。



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