Chapter 4


手燭の灯だけを頼りに、暗く長い廊下を歩いていく。歩を踏み出す度に、靴音が生まれ、重なっていく。薄絹が重なるように、靴音の残響は厚みを増していく。散じることなく纏わりついてくる残響は煩わしい。その根源が己の足の運びであることも、いまだに目的の場所に辿り着けていないということも、苛立たしい。
ここはロダの心臓の底だ。天井の裏には中央広場があって、この廊下は聖ヴェリカ教会から伸びている地下の腕になる。廊下の途中にはいくつもの扉があって、扉の向こう側には、ロダの始祖にあたる血――ロダという街を築いてきた、ロダに君臨する名門――の、家ごとの礼拝堂がある。残念ながらと言うべきか幸運にもと言うべきか、我がノルドヴァル家のような後出の家には、土を掘って教会の拡張でも図らない限り、礼拝堂を寄進しようにも新たな祭壇を捩じこめるような隙間はない。よって、廊下で擦れ違うだけで身を縮めるような気疲れからは、多少の距離を得ることができている。
ここは、昼であれ夜であれ、闇に潰されている場所なのだ。昼や夜の区別など、意味を持たない場所なのだ。灯のひとつすら場違いな、静寂こそが相応しい、静止そのものが佇んでいるはずの場所なのだ。
手燭の灯のひとつで拓くことのできる闇など、知れている。携えた花束の花びらの白など、闇に浮くはずもない。
目的の扉はまだ遠い。苛立ちだけが募っていく。そもそも、ここに来る羽目になった理由そのものを、どのように噛み砕いて呑みこめばよいのか、それすらわからないでいるというのに。
だから、扉は遠いのだ。
気づかないでいたふりをしていたことを、気づかないでいるふりをしていた己が囁く。思考として落ちてきた声に呆然として、歩を停めた。

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