Chapter 3




 ある冬の日、父が告げた。

「迎えに行ってこい」

 執務室に呼び出され、父と顔を合わせた途端に抛られてきた命令に、俺は眉根を寄せた。机上に置いた帳簿を繰りながら、父は続ける。

「エメリ・レドルンド。トビアス・レドルンドの第ニ子。お前の婚約者だ。三年前、ディロナのセルベル家に姉は嫁いでいる」

 肺に氷が詰まったような、鋭く淡い疼きを覚えた。呼吸を繰り返す肉の平静さを、めまぐるしく明滅する思考をもって眺める。そして唇に笑みを模らせた。

「俺に婚約者がいたとは初耳です」
「だろうな。お前に話すのはこれが初めてだ」
「どこに迎えにいけばいいのですか?」

 父の目が帳簿を離れ、子の胸中を窺うように眇められた。

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