Chapter 3
飾り窓の住人であるメロエは、当時からロダの夜そのものと呼ばれていた。もっとも、俺の記憶にある限り、メロエはずっとメロエのままだ。つまり、今も昔も年齢不詳だった。
花に埋もれた長椅子に、夜は横たわっていた。燭火のさざめきがメロエの足首で漣を立てる。猫のように伏せて素足を揺らすメロエの脚には、舞い降る花弁めいた薄絹が纏わりついていた。長椅子に背を預けて床に座る俺の顔を、覆い被さるように、灯を透かす睫毛に縁取られた淡い藍の目が覗きこんだ。
「なにか、気になることがあるの?」
くすぐるような声が骨の髄を融かしていく。
「そんなに呆けていたかな」
「ぼんやりしているわ、とても」
「妬ける?」
「妬いて欲しいのなら、妬いてあげる」
燭火の橙が重なり、からかうような色を湛えたメロエの目が紅を帯びた。囀るがまま、あやすようにあしらわれた時、痛感する。俺は決して夜には勝てない。
「冗談だよ」
「いつだって息抜きに来ていいのよ。どんな時だって、わたしはヴェイセルを待っているわ。もちろん、都合がつけば、ではあるけれども」
甘えさせているようでいて突き放しているだけの夜の、蕩けるような肌に煌くやわらかな髪を掬い、指で梳いた。
「それと同じことを、例えば、ラミズにもキャレにも言っているんだろ」
苦笑を零す俺に、メロエの唇が可憐に綻んだ。
「当たり前よ。だって、ヴェイセルもラミズもキャレも、わたし、だいすきだもの」
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