Chapter 2
抜けるような蒼穹の下、眩いだけの陽光とやわらかくなり始めた冷えた風。白茶けた壁に囲まれた天空に祝福されているような庭園で、ひとり、流れる黒髪をゆるく束ねた長身の青年が空を仰いだ。氷めいた雪明かりを連想させる白皙の肌と、空の蒼を映す切れ長の紫紺の目。北方民族たるテウトニー族の典型的な容貌を持つその青年の耳が風に運ばれてくるざわつきを捉え、ゆったりとした所作で青年は眺めるような距離にて背後に横たわる回廊を見遣った。
芽吹きかけている枝の薄い影と、蒼穹より降り注ぐ陽光。それらが織りなす重なりが乱舞する風の吹き抜ける回廊を行き交うのは、回廊の始まりになる黒々とした重厚な扉より吐き出されたいくつもの人影。整然と並ぶ同じ造形の柱が重なるその景色を構築するのは、やや気難しさを覚えるような、同一なる精緻な配列の連なり。壁が弾く陽光は爛漫で、その反射光は大気に細かな輝きをばら撒いている。
しばらくの間、そんな光景を目を眇めながら眺めていた黒髪の青年は、地に敷き詰められた石畳と小石とが擦れる小さな音に瞼を落とした。そして、かすかな微笑を含みながら問いを投げる。
「再審議は、いかがでした?」
ひんやりとした心地よさが沁みわたるような穏やかな声音に返ったのは、
「踊りもしない」
苦々しげに吐き捨てられた皮肉めいた響き。
「我々にとっては、状況はあまり芳しくないようですね」
ひっそりとした苦笑を浮かべながら、黒髪の青年は身体を反転させる。そこに立っていたのは砂色の髪を後ろに流したウェネティー人の青年。常であれば自信に裏打ちされ泰然とした光を宿している蒼の目に、今は抑えきれていない苛立ちが溢れている。だが、奔流めいた感情に呑まれることなく、蒼の目の青年は持論を展開した。
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