Chapter 2


「だが、所詮は時間の問題だ。西部都市同盟を敵に回しては、そう長くもないだろう。帝国中に網を張る彼らをもってすれば、所領のひとつやふたつ、孤立させ潰すは容易。物と金の流れを澱む以上に滞らせることができれば、あとは自壊を待つだけでいい。自給自足だけで持っている領地などどれほどある? 自領を疲弊させるだけの領主など、もはや存在する意味はないからな」

 わずかに首を傾げ、それでも無言のまま、黒髪の青年は聞き役に徹する。冷静と酷薄の境界の色を湛える紫紺の目はほのかな笑みを孕み、対する蒼の目に漲るのは――この場にはいない誰かとどこにいてすらも絡み纏う枷のようなすべてを見据えた――鋭利なだけの冷えた苛烈さ。

「女神を冒涜? 秩序の崩壊? その決定ひとつ程度で均衡が失われるなどとは、笑わせるにもほどがある。そこで言う均衡なるものが既にゆらいでいるからこその、そのことを俎上に載せざるをえなくなったからこその、この議会だ。現在において維持したい秩序を現出するために、綻び指の間から零れ落ちる秩序を回復するために、かつてのそれを維持するために適合していた何かにいつまでも固執して何になる」

 澄み切り高いだけの蒼穹と、その蒼穹を背に傲然と笑みを刻む青年と。頭上に広がる凛冽たる蒼とは似ても似つかない熱を秘めたその蒼は、数多の色彩を包括する鋼の光沢めいた流動を鋭さとして宿らせる。

「規定の枠が変わっている、決定の主体が変わっている。混沌を招く、か。素晴らしい。それこそが表舞台に躍り出るための条件だ。裏舞台でしか踊れなかったものが、華やかな演者として表舞台を席捲する嚆矢となりうる条件だ。理の女神が剣という秤を振りかざすのなら、我らは貨幣という秤を掲げよう。力も感情も安寧も、物もひとも大地もすべて、等価を示すことで遍く交換を可能にする万能の秤を」

 黒髪の青年の紫紺を真正面から見据え、蒼の目の青年は挑むことを楽しんでいるかのような笑みを更に深くする。

「まだまだすべてはこれからだ。手にできるものは、得ることのできるものは、まだまだ数え切れぬほどに沢山ある。見せてやろう。得ているものがそのままその手に在ることが当然ではないということを、得ているものがそのままその手に留まり続けることなどないということを。貴きとされているものが必ずしも普遍ではないということを、尊きとされているものが必ずしも不変ではないということを。強きとされるものが脆弱である様を、塵挨とされるものが遥か高みへと昇りつめる様を。すべてにおける変転を、反転を、逆転を」

 一瞬だけわずかに目を瞠った黒髪の青年は、

「面白くなってきただろう?」

 遊びにでも誘うかのようなこれに、ゆるく微笑してみせる。

「ご期待どおり、成り上がってみせようじゃないか」

 ゆるく、笑みの残滓を残しながら蒼の目の青年は踵を返して。
 吹き抜ける風は、テウトニー族の髪を流し、ウェネティー人の外套を翻し、そこに蟠るすべてを果ての知れない蒼穹の高みへと攫っていった。

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