Chapter 2
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街並みを見下ろすその場所からは、本来ならば耕され黒々としているのであろう荒廃した大地が広がる、白亜の城壁の外までがよく見渡せた。
清廉なる白を濡らすのは斜陽の銅。翳りを帯びたほのかな熱と、昏さを秘めた鮮烈な艶。
それらが満ちる世界で長椅子に座るのは漆黒を纏う緑髪の女。背後より落ちた影に動じることもなく、風にその髪を遊ばせながら、女は黄金と青褐が綯い交ぜとなった落日の空をただまっすぐに見つめ続ける。
影をもたらしたのは紅を色彩とする者。片手ですら縊り殺せそうな華奢なだけの女の後ろ姿を見据える男の、その身に纏う紅が風に翻った。
「帝都総督府前の広場に、帝都市民が押し寄せているようです」
男がもたらした音は風に攫われ、その残滓をとらえた女は唇だけを動かして音律を紡ぐ。
「現段階においては総督と警察の領域よ。近衛たる貴方には関係のないことだわ」
断定に近いこの物言いに、男はただ押し黙る。
そこには翳りを帯びた艶やかな朱金が満ちていて。
「だけど、彼らがないはずのものを振りかざしているというのなら、話は変わってくるかもしれないわね」
今や影と成り果てた遠くの山稜に溢れる落日を見つめるだけの女の髪を、まろやかな冷ややかさをもった風が散らしていった。
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