Chapter 4


「聖下より言伝だ。貴殿をカテル・マトロナ派修道院に派遣する、と」

 青年がわずかに首を傾げたことで、光の加減が変わり、ヘッセン・ダルムシュタット大司教を映しているその目が澄んだ紫を呈した。

「療養に専念しろ、と、いうことかな。もしくは、教会が表に立つことを了承したか」

 やわらかな微笑をたゆたわせながら目を細める青年を、探るように、イェレミーアスはその蒼の目で眺める。

「いいのか?」
「指し手としては悪くない。カテル・マトロナ派の法王は国教会の動きを警戒するだろうし、教皇は法王との繋ぎが欲しいはずだ。そして、私を国内に置いておくのであれば、アクィレイアや帝国の再興を望む声の種となりうることを想定しておかなければならない。私が生きている、と、露見した場合ではあるけれどね。それらを鑑みるのなら、人質として差し出すに、死人たる私は都合がいい。法王は迂闊に私を棄てられないだろうけれど、教皇にとっては、棄てられたところで初めから無かったことにしてしまえばいいだけだ。アレスに兄上の嫡子がいる以上、その祖母がアクィレイア再興の旗印として担ぎ出さないでいるということは、絶対ではない。その際、連邦中枢は、その動きを封じようとするだろう。そうなるのなら、連邦中枢にとっても教会にとっても、私を差し出したことによる利はあるからね」

 静謐でしかない淡い藍の目に、薄氷のような、張り詰めた鋭さが閃く。

「私は火種となることを望まない。私は、担がれてやるつもりもなければ、餌になってやるつもりもない。私は穏やかに過ごせればそれでいい。この先を外界に触れずに生きるとしても、ね」

 淡い苦笑をもって、青年はイェレミーアスを見遣る。風に遊ばれた大樹がそよぐ。やわらかさと鋭さの境目にたゆたう陽光が降り注ぐ。重なり陽を透かす大樹の葉の隙間に、澄み切った蒼穹がちらつく。緑の香を孕む風が吹き抜ける。

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