Chapter 4


「私に義理立てすることはないよ」

 大司教が去った後、姿を見せたカドベリー・カースル族に、青年はそう告げた。カドベリー・カースル族は、わずかに目を瞠り、呆れたように肩をすくめてみせる。

「今の私の主人より、貴方に仕えるように、と、申し付けられていますから」

 大窓を傍らに佇む青年の顔から表情が抜け落ち、やがて、埋め合わせるかのように、困ったような笑みが湧いた。そして、青年は枕に背を沈め、大窓の向こうの蒼穹を見遣る。

「頼まれてもらいたいことがあるんだ」

 窓の外を眺める青年の華奢な背中に、従者は眼を遣る。きらきらしい緑が風に撫でられ、ざわつきと、鋭い光沢を撒いた。

「私の代わりに、花を」

 爽やかな初夏に刻みつけるように、異母兄の名を、友人の名を、幾つもの名を、青年は紡いでいく。そして、最後に、ひとつの名を落とした。

「ラヴェンナに」

 青年と距離を置いて佇むカドベリー・カースル族が、かすかに面を上げる。

「機会があればでいいんだ。繕った日常が上滑りできる程度に落ち着いてきてからでかまわない」

 そこで青年は息を吐き、背後を振り返ることなく、意を決したかのように声を押し出した。

「お願い、できるかな」

 恐る恐る差し出された願いを、苦笑をもって、カドベリー・カースル族は掬う。

「仰せのままに、我が主」

 おどけたような従者の物言いに、ゆるく、青年は微笑んだ。
 緑を透かした光が煌く。風に緑陰が踊った。
 果ての知れない蒼穹に、すべての祈りは呑まれゆく。

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