Chapter 4



「面白いこともあったものですねぇ」

小さな街の宿屋の一室。濡らした布で僕の頬を拭きながら、愉しげにユベールが目を細める。水の染みるひりつくような痛みに顔をしかめた僕は、その反射でしかない頬の動きを後悔した。いくら泥や血を拭ってもらったところで、擦り傷がなくなるはずもない。
 背凭れのない椅子に座る僕の顔を、立ったままのユベールが小首を傾げながら覗きこむ。

「襲われかけてる女の子を助けようとしたなんて、どういう風の吹き回しです?」
「助けようとなんてしてない」

 顔を背けた僕の頬に、わざとらしくユベールが布を押し当てた。

「名誉の勲章、でしょう?」

 とりあえず、否定を表明するために眉をしかめてみせる。
 霧のようなやわらかな熱がつくる陽だまりは、明るくてあたたかくて、あまりにも居心地がよかったから、まどろみに溺れそうになった。

「とはいえ、この程度で済んだからよかったものの、オルトヴィーンが通りかからなかったらどうするつもりだったんですか?」

 笑顔を向けてくるユベールの声が、少しだけ、責めるような響きを帯びる。ユベールを満足させるような答えを口にすることなどできないことは判っていたから――心配してくれるのはありがたいのだけれど――僕は背後の扉に眼を遣った。

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