Chapter 3
ファウストゥス暦413年、南方異民族自治領の片翼――クシカ陥落。
アルウェルニー族自治領の領都にしてダーナ神教の聖地であるこの都市の帝国軍の奇襲による陥落は、当時の帝国西方の情勢の不安定さをそのまま物語るような事象であるが、この二年前にテウトニー族自治領領都コルチェスターが陥落したことを引き合いに出すのなら、帝国が抱える異民族自治領そのものの勢力が名実ともに強大化していたことに気づくだろう。少なくとも些事と無視できないほどには影響力を有していたことは確かであり、侵略ではなく略奪と評されるように、一連の鎮圧の過程においては温厚と知られていた男が冷酷帝の異名を得るほどに徹底した攻撃を加えている。
ともあれ、一説には西方における新興階級への資金流入の母体を叩くためとされるアルウェルニー族自治領侵攻に端を発する南方異民族領への帝国軍の進攻は、この数年後、最終的にはブランデンブルク伯爵領領都ウェルラミウムにて領主の処刑をもって集結する。それは血に狂った皇帝の所業とも皇帝と女伯との確執によるものとも噂され、 おそらくは、もはや誰の手にも真相は握られていない。
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