短編 | ナノ

 参

「――蠱毒とは、一つの壺に虫や蛇や蛙などを入れてその中でお互いを食わせ、一番に残ったものを呪いとして使う……人間でも同じことだ」


作品では「女郎屋」という一つの閉鎖的な空間で、女たちを焼き尽くす女を書いた。それは、蠱毒に当てはまる。女が願い、自分を最後の生き物として呪うことで「男を呪い殺した」というまどろっこしい話だ。

事実、それを見たとき「人間の執念は恐ろしい」と思った。

反面……書くならおどろおどろしく、この女がちゃんと呪いを成功させた、と誰かに知って欲しかった。


俺は、排他され、碌な死に方をしなかった女の気持ちを悔やんでしまった。


この家に残っている奇談や逸話に心揺さぶられることが多く、それを誰かに知って欲しいと思って俺はペンを握った。


それなのに、変に取り上げられてしまってやるせない。


「まあ、あの話は現代なんて目じゃなくもっとグロイ死に様だったし、女は挟部の弾き子だったんよねえ」
「挟部の家系は呪われてるしな……みんな短命だし」


四十代まで生きるかどうか……親戚との付き合いも薄く、挟部は俺で絶たれると思っている。


「大丈夫、僕は兄さんが死ぬときも一緒だから!」
「嬉しくねえよ!!」


どこまでついてくるつもりなんだ。いいや……こいつの執着は凄まじい。前世から俺と追い求め、散々とここまで追ってきたんだ。死ぬときもそばに居て「怖くないよ」って手を握りそうだ。想像がつくことに辟易としながら、年代物の電話の線をつないだ。


「……仕事するからあっちいけ」
「え? 待って、取材受けるの?」
「こっちとしても事件の関係性はないこと……本当の話を元に書いているってことくらい書かせてやらんでもない」


どうせならこれに乗っかって話題性を呼ぶのも悪くない。取材は絶対拒否するが、電話での応答、顔は絶対に見せないことを条件に出版元に掛け合って準備することは出来るだろう。俺はそこまで大御所でもないが、今回の件については出版元からも編集者からも、何らかの対処とコメントが求められている。


「どうせ、この屋敷に来たらお前がポルターガイストとか起こすし、「奇談作家」という名に恥じない箔をつけてやる」
「兄さん、開き直ったね」


連日のリンリン攻撃が止むなら、一度の釈明くらい我慢してやろうと思う。


電話線を繋いだ瞬間、またリンリン鳴り出して顔をしかめる。やっぱり携帯で電話すべきだった。イライラしながらもう電話は放っておき、出版社に電話をかけに部屋を出た。


「……じゃあ、僕もイタズラしちゃおう」


――幸太がそう呟いていたとは露知らず。






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