◎ 弐
「兄さんが今回書いた話、いつも通りなのにどうしてあんなに取材取材って騒がれてるの?」
「はあ……それは頭が痛い問題だ」
俺はため息をついて、コーヒーを啜る。
今回の新作『奇談 〜あやしV〜 』は短編シリーズとして雷文庫から出版されている。シリーズの売り上げはそこそこで、俺が慎ましく暮らしていく分には問題がなかった。
「……今回の話を書いたちょうど同時期に火だるま事件があったんだ。それと関係があるんじゃないか、ってすごく疑われて取材させてくれって……やかましい」
「俗世はいつでもやかましくて、厚かましいよ」
なるほどねえ、と幸太は頷くと俺が読んでいた週刊誌を覗き込む。
ちょうど「火だるま事件」と「奇談〜あやしV〜」の関係性があるかどうか、についても言及されている記事だった。
「くすす……ばっかだねえ……こじつけ過ぎる」
「ああ……なにせ、本を持っていなかったのに「友人から借りて、著者の影響を受けているかもしれない」だなんて馬鹿げている」
三流週刊誌にはありがちだが、くだらない。大体、新作はラストのシーンで「一家焼き討ち」を行うシーンがあるだけで、あとは鬱々とした一人の女の怨念の話なのに。
「あれ、すごく脚色入れてたけどどうして?」
「編集に止められた。グロすぎる、と」
俺が書く話は、本当の話を脚色して書いている。挟部家は、古くから狂った家で変な話や逸話が幾つも残されている。今回使ったネタは「女郎屋で疎まれた女」の話だ。
幸太に提供してもらった時は、思わずえずいた話だが、面白かったため、屋敷で資料を集めてシリーズに落とし込んだ。
最初の段階で編集に「面白いですけど……先生、毎回言ってるじゃないですか。出版で引っかかるから表現はソフトにしてくださいって!」と差し止めをくらった。
「蠱毒の話って気づく人は居るかなあ」
「さあ……でも、二回読めば分かる仕様にはしてあった」
実際、編集は推敲で二回読んで「ゾッとしました……先生、こういうの上手いですよねえ……今日、完徹しなきゃいけないんですけどおおおお!!!?」と怒りに震える声で電話をかけてきた。知らん。俺の担当になったことを恨むがいい。
「蠱毒、か」
俺はそう呟いて本の内容を思い返す。
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