短編 | ナノ

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しばらく、ホテル暮らしにすることにした。
妻が落ち着くまで、と思いつつ…俺は自分の身を案じていた。
分かっていた。
弟が俺に執着していること。
幼い頃からずっと……。
ただ、弟のことを考えると頭痛が走る。
吐き気や震え……なにか、思い出してはいけないことが――あるような。
それが何か分からない。

――次の日、どうしても家に取りに行かなければならない物があった。気が滅入るが、あれは人に触れさせたくない。
夜は避け、昼間に家へ行った。
家をそっと開け、誰もいないことを確認する。大丈夫誰も――ガンッ……


――気がつくと、ベットの上に横たわっていた。しかし、すぐに異変に気付く。少し動くとジャリ……と音がし、手には手錠、足はベッドの柵に繋がられていた。
それに……上に誰か乗っている。
「だれ、だ…?」
「――――!!!」
その男を…俺は見上げた。暗い中でもわかる。興奮しているのか、顔を真っ赤にし、歓喜しているようだった。誰…?
「やっと見てくれた……兄さん」



僕の、兄さん。



にい…さん…?



キンッと耳の奥で何かがはじけた。





「あ……あああ……ああああああああああああああああ!!!!!」





――思い出した。思い出した。思い出した――



――俺の両親は死んだ。こいつの母親のせいで、俺の目の前で殺された。
……父は、双子の一人と付き合っていた。その双子の姉が俺の母。妹が男の母。父は俺の母と真剣に付き合っていたのに、こいつの母親が冗談半分に入れ替わって父に惚れてしまった。結果、父は母と結婚し俺を産んだあとにも関わらず、あきらめきれなかったコイツの母が無理やり迫り、コイツを孕んだ。でも、選んだのは母だった。
――コイツの母は狂い、俺の前で父と母を殺した。俺はその時から――自分の腹違いの弟を認識出来なくなった。
コイツを認識すると同時に、両親が殺された事実が蘇るから――。
「く、くるな……!!誰がお前の兄だ!!?俺の両親を殺した殺人鬼のこどものくせに!」
「ああ…兄さん…僕と口をきいてくれるんだね……あのね、兄さん…僕、兄さんに相手にされなくてさみしかったんだぁ…」
恍惚とした笑みを浮かべ、俺を抱きしめてくる腹違いの弟に嫌悪が走る。
「やめろ!気持ち悪い!」
「母さんもいなくなって、僕には兄さんだけだったのに、兄さんは病気で僕を認識できなかった…やっと、話してくれてうれしい……」
ダメだ、話が通じない。身体だけひねって抵抗しようとするが、無駄だった。
「兄さん、兄さん、僕の兄さん……!」
「あが……っ」
あはははっ!と笑いながら、首を絞めてきた。逃げるすべは、ない。





「兄さん、僕ね、兄さんの大事な犬殺したんだ。でも兄さんは怒らなかったよね、なんてやさしいんだろうって思ったよ。でも兄さんは「喧嘩してる」って言ってたよね。ちょっと拗ねてたんだね。無視してるわけじゃなかった。だからもっと見て欲しくて…元々みてくれは良いけど、兄さんみたいに優秀じゃなかったから、頑張って頭良くなったんだよ。でも、兄さんは見てくれない。兄さんを悲しませる女を引きはがしたりもした。兄さんはそれでも見てくれなかったね。兄さんを騙して結婚させた女を、裁こうと汚そうとしたら兄さんは優しいから助けたんだよね。でも、僕をまったく見てくれなかった。兄さん兄さん兄さんぼくを見て。ぼくに怒って。ぼくを詰って。ぼくを憎んで。ぼくを無視しないで……!!!」





記憶が混同している……。ああ…俺の命もここまで…ひどい、じんせいだった…。
腹違いの弟の母に狂わせられた人生。
そして、弟を拒絶し、弟の人生を俺が狂わせた。
因果応報――これにて、終わり。











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