◎ 04
†
「後始末は、こちらで」
「ええ。協力ありがとう。アネクドート」
祭壇から躯を見下ろしながら、神父、ではなく、アネクドートにそうお礼を言った。
「仕事ですから」
アネクドートはまったく顔色を変えず、そう言う。
『アネクドート』―――……それは、都市伝説のようなものだった。
【アネクドート――……街のどこかにいて、人の負の感情を感じとり、その街で一番負の感情を持っている者に力を貸す】
都市伝説と思っていたが、本当にアネクドートは存在していた。現に今、私の目の前にいる。
『私でよければ、力を貸しましょうか』
ある日の夕方、ファミレスでコーヒーを飲んでいたわたしにそう声をかけてきた。新手のナンパかと思ったが、アネクドートは巧みな話術でわたしに自分の存在を証明し、復讐に協力する、と言ってきた。
最初は信じられなかったが、復讐の提案を聞くうちにそんなものはどうでもよくなった。わたしは、あの二人に復讐出来ればなんでもよかった。
復讐は計画通りに進んだ。
女はアネクドートが式の前に殺してくれたし、わたしは彼をこの手で殺した。二人はこの世にいなくなったのだ。
すぅ、と胸から憎悪が消えて行く……。
晴れやかな気分だ。これで、もう惨めな気持ちが無くなってスッキリした。
「それで、報酬の話ですが」
いつの間にか躯は無くなっていた。仕事が早い。
「報酬は確か……後払い、よね?」
アネクドートと初めて会った時に言われた。
『タダでは協力出来ません。すべての仕事が終了次第、請求したいと思います』
わたしは、請求、と言われて『お金』だと思っていた。だが、違っていたのだ。
もっと大切なものを私は、奪われていた。
「いえ、もういただきました」
「え?」
にっこり、と笑って報酬は貰った、と言うアネクドート。
一体何を?
「貴女の一番大切なものをいただきました。大変、良いものでした」
「わたしの、一番大切なもの……?」
なんだろう。お金じゃないの、と呆然としながら言う。
「違います。貴女の一番大切なもの、それは――……『夢』です」
ゆ、め……?
淡々とアネクドートは言う。
「貴女が彼らに復讐したかったのは、貴女の『夢』を壊したからです。貴女が愛していたのは、『夢』であり、その『夢』が壊されるのは、堪えられなかった。ですが、今の自分の姿を見てください」
――……真っ赤なウェディングドレス。
――……顔にもベッタリと付いた返り血。
――……アネクドートが差し出した鏡には……
わたしじゃない、憎悪にとりつかれた誰かがいた。
prev|
next
しおりを挟む