――宇都宮駅

日光駅から電車で揺られること一時間。宇都宮駅についた二人は、身体のコリをほぐすように大きく伸びをして、一息ついた。

「はあー、楽しかった!」

特に秋穂は大満足で坂城にべったりとくっついている。

「お土産買うか? あと宇都宮餃子も食べるんだろう?」
「食べる! お土産も見る!」
「はいはい……好きに連れて行ってくれ」

秋穂が携帯を片手に、坂城の手を引く。そのとき、坂城の目に、うろうろしている子どもたちが目に入った。

「あ、待て秋穂」
「どうしたんですか?」
「小さな男の子二人がオロオロしながら歩いていた。迷子かもしれない」
「え! それなら保護しないと!」

坂城から見て5歳くらいの少年二人が手を繋いで、不安そうな顔をして駅構内を歩いていたのだ。すぐに秋穂も、足を止め坂城の言う男の子二人を見つけようと言い出した。

「悪いな」
「良いですから! どっちに行きました?」
「逆方向だ」

二人はすぐ近くに居た男の子二人を見つけた。一人はふわふわとした明るい茶髪の男の子で「だいじょぶだよーまいごになったら動くなってかーちゃん言ってたしー」と楽天的に言い、もう一人は不安そうな顔を色濃く顔に出しながら男の子を引っ張って「もとのばしょにかえろう!」と言っていた。
秋穂は坂城の顔を見てすぐに二人に近寄った。坂城が迷子の子どもを放っておけなくても、子どもが苦手なのは分かっていた。苦々しくそれが顔に浮かんでいるのを秋穂はくすっと笑って二人に近づき、目線を合わせて挨拶をした。二人は怪訝そうに秋穂を見た。

「こんにちは」
「こんにちは!!」
「ショウ! しらないひとに、話かけられてもへんじしちゃだめだろ」
「おねーさん、ふしんしゃー?」
「ううん、違うよ。私はね、秋穂って言うんだけど、二人が困ってそうだから話しかけたの」
「おれはねー、ショウ! 5歳!」
「かんたんに名前おしえるなよっ」
「いいじゃんかー……むう」
「えーと……君の名前教えてもらってもいいかな?」
「やだ」
「ことらのこと? ことらはねー、あ、名前はちいさいとらで、ことらだよ!」
「なんでおしえるんだよ! ショウのばか!」
「ぶふっ……分かった分かったごめんね、ショウくんと小虎くん。二人は誰と来たの?」
「ことらのおとーさんとおかーさんと、おれのかーちゃん!」
「……」

ショウという男の子は随分と素直で、逆に小虎という男の子は警戒心が強かった。坂城は、ショウが「父と母」の存在を口にしたとき、ことらがぐっと顔を強ばらせたのを見逃さなかった。

「そっか、はぐれちゃったのかな?」
「そう、まいごー! どうしようー! あははは!」
「わらうなよ!」
「だ、大丈夫だよ? すぐに見つけてくれる場所に連れてってあげるから」
「おれ、しってる! まいごのとこだー!」

ショウはすぐに秋穂になつき「たぶんねー、かーちゃんはまいごのとこにいるよー! おれすぐまいごになるからー!」とニコニコ笑っていた。
ただ、小虎の方は顔を強ばらせたまま、下を向いていた。

「俺は、秋穂の恋人の坂城だ」

坂城は、秋穂の真似をして視線を合わせて小虎に問いかける。

「君は、親にここに置いていかれると思っているのか」
「……」
「大丈夫だ。すぐに君の両親を見つけてやる。今頃、君の両親は君を必死になって探している」
「……ほんとう?」
「ああ、本当だ」

顔を上げた小虎は涙を堪えているようだった。迷子になって心細かったのだろう。

「そうだよ、ことらー! まいごせんたーにいけばいいーんだよー!」
「もとはといえばショウがはぐれたせいだろー!」

楽観的にショウに小虎は不満が積もっているのだろう。ショウの頭をべしっとたたいた。

「いてっ……」
「おい、ダメだろ。叩いたら!」
「だって……ショウが」
「ことらたたいたー! おれなんにもしてねーのに!」

いたい!いたい!と秋穂に訴え騒ぐショウに少女は困り顔で「痛かったね」と頭を撫でる。どう考えても、悪かったのは手を上げた小虎だが、迷子になった原因がショウと聞くと秋穂は、坂城に助けを求めるように見る。坂城は頷いて「……おれわるくねーもん……」としょげながら意地を張る小虎に諭すように言う。

「そうだな。でも友達を叩いたらダメだ。ごめんなさいは、言えるか?」
「だって、」
「謝った方が偉いんだ」
「なんで! おれ、わるくないのに」
「小虎は悪くないかもしれない。でも、叩いた方が悪い。謝って仲直りするんだ」
「……ショウ、ごめんなさい」
「やだ! たたいた! ゆるさねー!」
「……っ」

坂城のうながしで、素直に謝った小虎だったが素直だったショウがそっぽを向いてそれを拒絶してしまう。坂城は、今度はショウに話しかける。

「ショウ、君は小虎を許すんだ」
「なんで! 叩いたじゃん!」
「小虎は謝っただろう? それに、君も小虎に謝らなければいけない」
「なんで!?」
「喧嘩は、どちらも悪いことだ。小虎は叩いたが、そんなに痛くなかったのに騒いだショウも、悪いんだ」
「……むずかしい。けど、うん……ことら、ごめんね」
「いいよ」

ふう、と秋穂は嘆息する。仲直りした二人はまた手を繋いだ。

「よし、じゃあ迷子センターだ」
「そうですね! ショウくん、小虎くん行くよ〜」
「はーい!」「うんっ」



prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -