そうして2人は、東照宮の奥へ奥へと足を進める。ーー残念なことに、日本で一番美しい門と評され、東照宮の顔とも言われる陽明門は、平成の大修理中だった。鉄筋や工事の網で囲われ、見ることは叶わなかった。

「えっ、眠り猫ってこんな感じなの?」
「みんな見るからだろうな……」

彫り物でもう一つ、三猿の他に有名な眠り猫は小さな彫り物のため、見にくいせいだろうか。「↑眠り猫」という看板が立てられ、観光客に配慮し過ぎて残念なものだった。

「写真撮らなくていいのか? 撮ってやろうか?」
「みんな足止めて写真撮ってるけどいいや……萎えた」
「まあ、分かる……」

眠り猫を通り過ぎると、長い上り階段が奥宮へと続いている。これを登って、墓所へとお参りするのだがーー

「や、ばい……つら!」
「頑張れ、まだ十代だろ……!」
「数えでっ、に、じゅ、だしっ」
「あぁ……タバコ、控えないと、いき、くるし……」

ハアハア、と2人は息を切らしながら上を目指す。中々、急な上り階段に体力がじわじわ削られていく。階段一段も、普段利用するような階段よりも高い。
2人は、墓所前の自販機とベンチが備えてある開けた場所に、倒れこむようにして座った。

「はあ、はあ……休む……」
「そう、しよう……」

――坂城は、自分の体力の衰えに愕然とする。剣道で鍛えていたはずの足腰が弱っている。このくらいの上り階段、どうってこと無かったはずだと、落ち込む。

「歳は、とりたくない……」
「いや、坂城さん若いからね!タバコのせいだから、絶対!」
「う、むむむ……」
「ほら、行きますよ」
「やっぱり、お前はまだ十代だ……元気だ……」
「たった二歳差でしょ! 」
「十代と二十代には壁があるんだ」
「へりくつー!」

会話していると息が整ってきた。奥宮拝殿(はいでん)を潜り、奥宮宝塔を拝観した。

「……徳川家康、ここで眠ってるんだ?」
「天下の将軍も、未来で自分の墓所が観光地になっているとは思わないだろうな……神様に祀られている場所だが連日観光客であふれている」
「賑やかでいいじゃないですか?」
「静かに寝れないと思うが。でも、案外自分の墓所を参拝するくらい平和な証拠だって、喜んでるかもな?」
「きっとそうですよ。その話のネタに信長と秀吉と酒盛りしてますって」
「あの世は楽しそうだな」

失礼と思いながら、もしもの話に花を咲かせくすくすと笑う。墓所をあとにし、今度は階段を下って奥宮を後にした。――このあと二人は、鳴き龍(なきりゅう)で有名な薬師堂や縁結びで有名な二荒神社を参観した。途中、口の上手いお坊さんに念珠を買わないかとセールストークを受け、坂城が秋穂の分も念珠を買ったり、東武日光駅に戻って食べたお昼のゆばが微妙だったり――楽しく日光散策を終えた。


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