二人は 日光駅から、出ているバスに乗り、東照宮を目指す。秋穂は坂城の隣に座り必要以上にくっつく。坂城はご機嫌な秋穂を好きにさせ「なんで日光に行こうと思ったんだ?」と聞く。

「なんとなく? 母が宇都宮餃子食べたいって言ったから、うちも行くーって感じ!」
「適当な……お前のお母さんはなんて?」
「うちのミスに呆れてたけど、しょうがないから、楽しんでおいでーって。お土産は宇都宮餃子で、って頼まれた」
「まったりしてるな……」
「いやいや、かなり怒られたんですよ! 人に頼むなら!自分でやれ!ってうち逆ギレしましたもん……旅行の手配の仕方わかんないって言われて、もう!」
「日程を確認しなかったお前も悪いだろう?」
「でもー! いいや……どうせ家族のみんなうちが悪いって呆れてるし? おかげさまで坂城さんと旅行行けたし!」
「まあ、お前のお母さんには悪いとは思っている……お土産ちゃんと買わないとな」
「そうですね! あと餃子も食べますよ!」

そうしておしゃべりをしていると、――表参道、表参道……――というアナウンスが流れる。

「ああ、ここだな」
「降りますか!」

秋穂は坂城につられて立ち上がり、運賃を払ってバスを降りた。
――二人は澄んだ空気を感じながら、手をつないで歩きはじめる。

「わぁ!」

すぐに見えたのは、脈々と続く杉並木が立ち並ぶなだらかな坂道の街道。そして、奥にはちらりと表門が見える。

「え、なんか、すごい!」
「綺麗に舗装されてるんだな」
「奥に、見えるのが表門ですかね? あ、東照宮って書いてある!」

坂城は秋穂に、はしゃぐな、と注意しながらなだらかな坂道を登り「東照宮」の記念碑で一枚写真を撮る。

「来たぜ!東照宮!」
「来たなあ、東照宮」

――石鳥居、五重塔、そして表門の階段を登って門を通過すると、あの有名な三猿の彫刻が施された神厩舎(しんきゅうしゃ)や、お祭りの道具が入っている三神庫(さんじんこ)が見える。そこには、素晴らしい彫り物が施されおり、二人は感嘆をあげる。

「ひぇ……すごい」
「立派だな」

――実際に見たことがない像を想像で描いた、想像の像。
――見猿、言わ猿、聞か猿。
色彩豊かな彫り物と豪奢な建築に、観光客たちは足を止め魅入ったり写真を撮ったりしている。坂城と秋穂も、足を止め何百年前に建てられた建築や細かな彫り物に驚く。

「こうして見ると、やっぱり百聞は一見にしかず、ですねえ……」
「一つ賢くなったみたいだな」
「ちょ、バカにしてるでしょ!?」
「じゃあ、一つ問題だ。日光東照宮とは、誰が、誰のために、何のために造られた神社でしょうか?」
「えっ!? え……!? なんかすごい神社じゃないの!」
「なんかすごい神社……間抜けな回答だな」
「ひどい! えっと、えぇ……? わかんない!」
「それくらい調べて来なかったのか……」
「急に言われたってわかんないですよ! 家康が祀られてるってことしか……ってあれ?」
「おお!良く知ってたな。そうだ、徳川家光が徳川家康の死後、彼を祀るため作った神社なんだ。ようは、お墓だな」
「え!? ここ、お墓なの!?」
「そう。だから、奥宮 ……ここからずっと登って行くんだが、そこに家康が祀られている。ここはお墓でもある。騒がず、静かにな」
「……はい」

秋穂は、人差し指を唇に当てしー、とそっと言う。

「ふははっ、そう声を潜めなくてもいい」
「だって静かにって言うからっ」

坂城は、冗談だ、と秋穂に笑う。

「もう!」
「まあ、奥宮では静かにな」


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