――東武日光駅。

待ち合わせに 30 分前に坂城は新宿から特急電車<スペーシア>に乗ってきた。東京から日光は近いもので、1時間半ほどで着いた。平日のせいか、電車は空いていたが、外国人観光客が多いと感じた。

「随分レトロな駅なんだな」

秋穂とは、日光駅で待ち合わせをしている。東武日光駅と日光駅は歩いて 5 分もかからずにいける距離にある。
すぐに日光駅に着いた坂城は、東武日光駅は近代的だったのに日光駅は洋風の木造建築二階立てで、昔の小学校みたいな建物だな、と感想を抱く。
そして、東武日光駅より周りに何もない。土産物屋やごはん屋も、あっちの駅の周りの方が栄えていた。
お昼を食べるなら帰ってきてあっちの駅で降りた方がいいかもしれない、と坂城は思う。つらつらとそんなことを考えていると、駅に電車が到着した。すぐに駅には降りてきた観光客でいっぱいになる。坂城は、秋穂はどこだ、と駅舎の外で待つ。
その姿は、すぐに見つかった。見ないうちに髪の毛は少し伸びただろうか。ショートカットからミディアムくらいの長さになっても、ピン、と跳ねたアホ毛は相変わらずで、いっそおかしい。
秋穂は不安そうに落ち着きなく周りを見渡す。坂城は、頬が緩むのを感じながら、彼女の名前を呼んだ。

「秋穂」

きょろきょろと視点の定まらなかった目が、坂城を捉える。瞬間、ぱあっと顔が輝いた。

「坂城さん!」

駆け足で坂城に寄る姿は犬のようだ。坂城は可愛い、と口には決して出さないが、そう思う。

「久しぶりだな」
「本当!うち、坂城さんに会うの、半年ぶりでしたよ!」
「……そんなに会ってなかったか?」
「マメに電話してるせいですかね? 全然久しぶりな感じしない! でもやっぱり、坂城さんと会えて嬉しい!」

えへへ、とはにかむ秋穂は素直に気持ちを伝える。反して坂城は、秋穂の言葉に素っ気なく「……そうか」としか言えない。久しぶりに会う恋人のストレートな物言いに、照れ臭く恥ずかしかった。

「今日は急なのに、付き合ってくれてありがとうございますー!」
「ああ、別に。暇だったからな」
「ふふ、そうですか! じゃ、行こ! バスで東照宮近くまで行けるみたいですよ」
「ああ、確か「表参道」で降りてそこから歩いて東照宮まで行けるんだったか?」
「そうそう。ここから歩いても行けるみたいですけどね。まあ、バスで行きましょう!」

そして、バス停の方へ足を向ける秋穂は、あっ、と声をもらし「忘れ物!」と坂城に手を差し出した。

「はいはい」
「えへへー!」

すぐに坂城は秋穂の手を握り、秋穂の歩く速度に合わせて、歩き出した。



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