――旅行当日


「ねむい……」

秋穂は新幹線に 3 時間の揺れ、宇都宮駅に着いた。これから日光線に乗り替え日光駅に行かなければいけない。日光線は一時間に一本のため、電車が来るまで少し時間があった。

「はー、でも坂城さんと旅行に行くことになるとは……ふふ、たのしみー!」

にやける頬を止められない。朝から「起きたか?」「ちゃんと新幹線に乗れたか?」と坂城から連絡が来るのもうれしい。全部保護者のような連絡だろうが、坂城から連絡が来るだけうれしい――という普段どれだけ坂城からメールや電話が来ないのか、伺えるような考えだった。

「あ、夏芽にラインしよ」

着いたら誰でもいいから連絡しなさい、と母と言われていたのを思い出して、妹へ連絡しようと携帯を開く。きっと、まだ家に居て両親と朝ごはんを食べているはず、と目測をつけて『宇都宮着いたぜ』と連絡する。
するとすぐに返信が返ってきた。

『切符落としたとか、財布置いてきた、とかないように、ってお母さんが』
『心配しなくても大丈夫だし』
『秋穂の大丈夫はアテにならないって、お父さんが』
『大丈夫だもん!ちゃんとお土産買って帰ってくる!』
『友達に迷惑かけないようにね。お土産はいいから楽しんできなよ』

了解、と返信すると携帯は鳴ることなくそれで終わりだった。

「……我が妹ながら、しっかりしてるわ……」

二つ下にも関わらず、こんな風に姉を思いやれる(友達の心配を出来る)妹はすごいなあ、と秋穂は関心する――上がちゃらんぽらんだと、下がしっかりするんだ、と坂城の言葉を思い出す。それが事実だな、と思いながら妹の好きなお菓子を買って行こうと思った。
朝食に立ち食いそばを食べて、電車を待っている間に日光東照宮について調べた。

「ふうん……
【日光東照宮とは……日本を代表する世界遺産「日光の社寺」。
その中でももっとも有名な「日光東照宮」は徳川家康がまつられた神社で、現在の社殿群は、そのほとんどが寛永13 年 3 代将軍家光による「寛永の大造替」で建て替えられたもの。境内には国宝8棟、重要文化財 34 棟を含む 55 棟の建造物が並び、その豪華絢爛な美しさは圧巻です。全国各地から集められた名工により、建物には漆や極彩色がほどこされ、柱などには数多くの彫刻が飾られています。】
――世界遺産なら、すごいのかあ……?」

正直、秋穂は日光なんてカケラも興味なかった。母が行こう、と姉妹に言って乗ったのが秋穂だけだった、という。母は母で、宇都宮で餃子を食べるついでに、有名な東照宮を見ようかしら、という気持ちだったらしい。
旅行の予約とかわからないから秋穂よろしくね、と頼まれてきちんと予約を取ったのにお互いの日程のすりあわせを間違い、結果自分だけ日光に行くことになってしまった。母には悪いことをしたなあ、と思いつつしっかり楽しもうと思った。
電車の時間が迫り日光線のホームに降りると、そこだけレトロな外観のホームで、うすい赤茶の壁紙で統一されていた。そうしてすぐに同じ色の電車が到着し白抜き独特の筆致で「日光線」と書いてあった。

その明治大正を思わせる古めかしさに、秋穂の心がはずむ。

「(それにしても……)」

周りを見渡すと、外国人ばかり。目鼻立ちパッチリの外国人に囲まれ、正面には旅行で来たのかカップルが座る。さりげなく彼女は彼氏に甘えてくっついている。

「(そういえば会うの半年ぶり……? 帰りの電車でくっついてやる……!)」

前に坂城に会ったのはいつだっけ、と思いながら電車は日光駅に向かって走り出した。

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