――信号のある交差点では「大丈夫ですか?」「荷物持ちますよ」と重そうな荷物を持ったお婆さんを手伝い、泣いている迷子の子が居れば「君、迷子?」「交番連れてこうぜ」と交番に連れていき、交番先では「仕事押し付けられちまったな……わりぃ、田村」「良いよ、乗っかった船だしね」と雑用の仕事を押し付けられ……。
「……」
「……」
そんなこんなで、一時間。小虎と沙弥を電柱や物陰に隠れながら……尾行し――千百合と真也は呆れていた。
「あれは……宮沢賢治の詞かなにかなの?」
「東に困った人あれば……を体現したようだ……」
二人は――お人好しにも程がある。
「そんなひと……そこが良いのだけど」
「うん、そうだね」
平城は間髪入れず頷いた。お節介で、お人好しで、人を放って置けなくて、優しい彼女が好き。彼女の優しさに救われた彼は、それを否定することはなかった。
そしてまた……沙弥は「あっ、ハンカチ落としましたよ」とハンカチを落とした男に、拾ったハンカチを渡しに走る。それを見て嘆息した真也は、後ろに居る千百合に聞いた。
「高坂さん、どうする? まだ、尾行続ける……?」
――なんとなく、真也は二人は人助けばかりで、このまま尾行を続けてもが意味のないように思えてきた。あのケーキ屋で見せた甘い雰囲気以外は、ただの気安い友達に見えた。……気安い友達というのが、真也の胸をくすぶるが、沙弥のコミュニケーション能力の高さは真也のそれを遥かに凌駕するので、あれくらい普通だと判断すべきだ。……そうでなければ、嫉妬で身が持たないだろう。
「高坂さん?」
――いつまでも返事がないことに気づき、後ろを向くと、 千百合がいない。どこだと、きょろきょろと探すと――
「し、しんや…くん」
「!!?」
ビルとビルの合間に千百合は、居た。
「小僧、黙らねえと撃つぞ」
見慣れない黒光りするモノを持った男に、捕まえられて。
「……っ」
真也は目を見開いて驚いたが、あの淡々とした声ではなく、震え恐怖するような声で呼ばれ、声を圧し殺した。
そして、また。
「やめ……っ!」
「!」
想いを寄せる彼女の焦った声が聞こえ、真也は振り向いた。
「田村!!!」
そこには、千百合と同様に捕まった彼女。
彼女の身体をしっかり捕まえた男は、スッと腕を高く上げ――
「――今から一歩でも動くな、撃つぞ!!」
――パンッ! と銃を撃った。
……休日のモール街には相応しくない、乾いた音が響き、一拍置いて、ショッピングを楽しんでいた人の悲鳴が上がった。
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bkm