04
ネオン街の光を遠ざけながら、男と和泉は交番を目指して町を歩いた。男は途中、知り合いの女に話しかけられ「また助けてるのー?」と言われたあたり、どうにもこういったことは手慣れているらしい。和泉はそんな感想を持ちながら、男の隣をぼんやりと歩いた。一方、男はお喋りだった。
「ね、ね、君の名前は?」
「平野和泉」
「いずみちゃんかー。俺は村崎九重(むらさきこのえ)だよぉ。九の重いって書いてこのえ」
「このえ? ホストのくせに名前可愛い…」
「よく言われるよ。気に入ってるけどね」
「ふぅん…」
和泉は気のない返事をし男――九重はベラベラ喋り続ける。そんなことを三回ほど繰り返して交番に近づいたとき、少女が小さく男の服を掴み、立ち止まる。
「…どうしたのー?」
「……やっぱり、交番やだ」
"絶対、怒られる"
少女が歩きながらぐるぐると考えていたこと。
それは当たり前のことで今さら往生際が悪いと思っていたが、怒られるのは嫌いだし拳骨落とされるのも嫌だった。
「大丈夫ーおれがいるよー!」
急に悲しそうな顔をして黙り込んだ少女を見て、優しく頭を撫でた。ようやく年相応の顔を見せてくれたなーと思いながら。
「……このえは、暴力反対派?」
「どういう意味?」
九重は和泉が自分の名前の呼び捨てをしていることも気にせず聞く。
「お巡りさんがわたしを殴ろうとしたら、止めてくれる?」
「そんなー……ここのお巡りさんは暴力的だけど、女の子に暴力は奮わないよー?」
少女は、男を本当か? という目で見る。だが、男は明るい声で言った。
「そんなことさせないから大丈夫。いずみちゃんはおれが守ってあげる」
ね、と和泉に向かってにっこり笑い「大丈夫大丈夫」と優しく頭を撫でた。彼女はその頭を撫でる優しい手つきと言葉に、きゅん……となんてしてない……と冷静に思い毒を吐いた。
「…このえ、大分ヒョロイけど大丈夫?」
「ひでー!」
九重の反応に、和泉はこの町に来て初めて顔を緩ませた。
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