夜を迷える子羊 | ナノ


  02


お姉ちゃんの何が偉いんだよ。わたしは疲れたんだよ。何もしたくないし、誰の言うことも聞きたくない。


頭の片隅で「思春期」「反抗」と浮かんで消えた。お姉ちゃんなんて止めたい。わたしだってそんないい子なわけじゃない。たかが、15の中学生なんだよ――。


「ね、ね、こんなところで何してるの?」


ひどく間延びした声と甘ったるい香水の匂いがした。和泉は顔をしかめて声をかけてきた相手を睨んだ。母親譲りの鋭い眼光は学校の男子を怯ませていた。だが相手―ちらと見た限りホスト風の服を着たチャラい男―は怯むことなく「おーっこわ!」とだけ言ってにこりと笑った。


「ここあぶないよー? 君みたいな綺麗な顔立ちの子なんて、どこぞに連れてかれてぱくっと食べられちゃうよー? ね、ね、聞いてる?」
「……綺麗な顔立ちじゃないし、中学生相手にするなんてロリコンか」
「え。君、高校生かと思った…随分大人びてるねー。ボーイッシュで背高いし、あ、でもよく見れば幼いや。ふんふん。ロリコンみたいな怪しいやつもいっぱい居るから、おまわりさんいこ?」


彼女は男に軽く腕を引っ張られたが抵抗した。


「おまわりさん、やだ」
「えーこの町のおまわりさん優しいよー? ツンデレでおもしろくすらあるよー? 元ヤンだけどー」
「……そんなの知ってるし」
「えー?」
「なんでもない」


彼女は苦虫を潰したような顔で首を振った。三桜町に来たのはミスったと後悔する。両親共通の友人、しかも自分も親しい人が、おまわりさんをやっていた。自分の娘には甘いくせに、和泉が悪さをしたら拳骨がお見舞いされるのだ。それが痛い。思わず思い出してきゅうっと身が縮んだ。


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