86 大きなモンブラン
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「可愛いぞゆか〜!」
「…なにやってるんですか環先輩」
「なにって、ビデオを撮ってるんだ」


娘の記録をとるのは当然だろう!と言う環にお前は兄なんじゃなかったのかと突っ込みを入れたかったがいかせんさっきから同じようなツッコミをしすぎだ。ビデオカメラ片手にゆかと遊ぶ環をハルヒはスルーすることにした。


「ゆかおいで」
「うあ?」
「こっちまで歩ける?」


鏡夜のところから移動してきた馨がゆかに向けて手を広げると、一瞬分からなかったのかきょとんと首をかしげたゆかは歩ける?と言われて分かったのか近くにいた環の膝をクッション代わりに起き上がって馨のほうに向いて歩き始めた。よたよたと覚束ない足取りで歩く。


「もうちょっと…」


何故か周りも本当に小さな子のあんよを見るかのようにゆかの姿を見守っていた。なんだか不思議な光景である。途中でこけてしまったゆかに環がああ!と大声を出した事で自分達の状況を理解して、なんか気持ち悪いなとハルヒは思った。よいしょ、と馨がゆかを抱き上げるとゆかはぎゅっと抱きついた。


「…」


そんな姿に馨がちょっとときめいたのは秘密だ。





「ふう〜美味しかったです」
「じゃあハルちゃん、デザートにしよっか!」
「…いえ、デザートはいいです」


さすがスウィートルームというか、夕食はとても豪華なものだった。その中に大トロを見つけて目を輝かせたハルヒを見て鏡夜はくいっと眼鏡を上げた。本当はこのディナーに大トロのメニューなんてないのだ。美味しかったです、と言って箸をおいたハルヒには後ろで大きなケーキホールを3つほど机にのせたハニーに呼ばれた。見ただけでお腹いっぱいになってしまうようなその光景にハルヒはお断りさせてもらった。数分後に振り向いたときには半ホールしか残っていなかったのは見なかったことにしよう。


「ゆかさんは小さくなってもこれは変わらないんですね」
「「好きにもほどがあるよね」」


ゆかはハニーの机の中からモリにモンブランを貰っていた。今のゆかにとっては大きな栗をフォークにさしてぱくっと口に入れて、美味しかったのか目をキラキラ輝かせるゆかに呆れたように光と馨が言った。本当、好きにもほどがある。(こんな姿になってもモンブランに目がない)


「あ」


すると食べ終わったゆかが椅子でコーヒーを飲んでいる鏡夜のところまではいはいして行った。どうするつもりなのかとそのまま見ていると、鏡夜と目が合ったゆかはにこりと微笑んだ。それを見て鏡夜がした行動とは。


「(見てはいけないものを見た気がする…)」
「「きょーや先輩僕らにチェンジー」」


ゆかの頭を、優しくなでてあげていた。不思議なものを見たなあとハルヒが思っていると双子が出てきてゆかを取り上げた。するとゆかが眠そうにあくびをするのでみんなもう寝ることになった。まだ遊びたいと双子が駄々をこねたけれどその頃にはすでに夢の世界へと行ってしまったゆかを見て仕方なしと言った感じでベッドルームへ移動した。ちなみにゆかはハルヒと一緒だ。俺もゆかと寝たいー!と騒いでいた環はモリ先輩に担がれて行った。


「(ちっちゃいなあ…)」


隣に眠るゆかを見て思う。改めてみると本当に赤ちゃんだなあ。そんな事を思いながらハルヒも眠りに付いた。朝起きたときは、ゆかが元の姿に戻っているように。





「…」


朝起きたとき、ハルヒの目に映ったのは赤ちゃんの姿のまま眠るゆかの姿だった。どうやら飴を食べてから1日経たないと戻らないらしい。それを知ってまだゆかの可愛い姿が見れると喜んだ環たちとは別に、ハルヒは今日の授業は欠席かなあなんて考えていた。






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