inquirer
好きな人がいる。同じ図書委員の杉山くん。彼は委員長とか副委員長とか役職に就いていないし、どちらかと言えば地味な人だ。けれど、彼が優しいことを私は知ってる。優しくて温かい人であることを知っている。理由なんてそれで十分だった。
私は好きな人のことなら何でも知りたい。好きな食べ物嫌いな食べ物、趣味や血液型、誕生日、身長体重、何でも。気になったら納得するまで追求する。
だから私が彼のことをもっと知りたくなったのは、必然。
「宇野ってさ、杉山純良(すぎやますみよし)くんと双子なの?」
日誌を書いていた宇野の手が止まる。ゆっくりと上がった顔には露骨に嫌がってる表情が張り付いていた。恐い恐い(笑)。
「…だったら何だっつの」
「あ、本当なんだー似てないね。二卵性?」
「んな事知ってどーする。つか、誰から聞いた?」
「望月先生が」
「あの担任め」
「放置してた生徒名簿をちょろっとね」
「テメー訴えるぞ」
「ご自由にー」
まだブツブツ言ってるけど、スルーで。だって本題はこれからだ。
「ね、お願い! 杉山くんのこと教えて?」
両手を顔の前で合わせて拝むポーズ。さらにちょっと俯いて上目遣いも。これで落ちない人はいない、多分。
「なんで俺が」
「兄弟なんでしょ?」
「だからなんでだよ」
「私が杉山くんを好きだから。好きな人のこと、知りたいの」
「…本人に聞け」
ため息を吐き捨てられてしまった。宇野は顔を下げ、また日誌を書き出した。私の存在は無視のようだ。まったく失礼しちゃう。今日あったことなんてどうでもいいっつの。
だから日誌の上に手を被せた。邪魔をするなと払い避けられたけど、もう一度被せる。答えてくれるまでどかさないから。にっこり笑えば、またため息。
「私ね、外堀から攻めるタイプなの」
宇野は本人に聞けと言ったけど、杉山くんと私の接点って同じ図書委員しかない。しかも当番も違うから、たまにある集会くらいでしか顔を合わせない。きっと杉山くんは私の名前すら覚えてないかもしれない、私なんて殆どの人は顔しか覚えてないし。
同じ図書委員なのは覚えてくれてるだろう。だけどソレだけなんだ。彼にもっと私のことを知ってもらうために、まずは私が彼のことを知らなくちゃいけないと思う。
だから、私は彼のことが知りたい。
「俺、外堀ですらないと思うけど」
「でも何か知ってるでしょ? 兄弟なんだし」
「知るかよ、あんな奴の事」
「仲悪いの?」
「別に」
お前はエリカ様か!ってツッコミたくなるような台詞だけど、そんなこと言ったらもう取り合ってくれないだろうから口を噤む。
「どーでもいいよ、あんな奴」
諦めてしまったような、蔑んでしまったような言い方をして、宇野は私の手を払い避けた。
どうやらあまり仲は良くないみたいだ。まぁ、2人が双子だと知ってる人はいないし、彼らが話しているのも見たことはない。ないけれど、私達の教室を通り過ぎる杉山くんは寂しそうにしていたのを私は見た。そして多分、宇野を見ていた。
だから私はあの名簿を見て、杉山くんの欄にあった旧姓宇野の字を見て浮かんだ双子説を確信に変えた。こうやって一か八かで聞いている。一度知りたいって思ったらもう止まらない。
「名字が違うってことは、離婚家庭? だから仲良くないの?」
ピクリと宇野の手が揺れた。
「お前、ウザいね」
「よく言われる。あと諦めも悪くてワガママだって」
「最悪だな」
「うん、だから諦めないよ」
「………」
にっこり笑えば、ため息を吐かれた。あれ、これデジャヴ?
「……俺が知ってる事なんか、限られてるぞ」
「教えてくれるの!?」
「日誌書き終わるまでな」
「よっしゃあ!」
握り拳を作って喜ぶ私を宇野は呆れたように笑った。目を少し細めたそれは誰かを思い起こさせた。
どうして気付かなかったんだろう。杉山くんと宇野はそっくりだ。
髪型や髪色、杉山くんは眼鏡もしているから、パッと見では分からなかったけど。2人はよく似てる。輪郭、目、鼻、口がそっくり。きっと一卵性の双子だ。
違うのは2人が纏う雰囲気。杉山くんはとにかく優しいから、彼の周りはいつだってほんわかしてる。宇野は正反対にトゲトゲしていて威圧的だ。そんな違いで気付かなかったのかもしれない。
そもそも2人はどうして仲が良くないのかな? あぁ、どうしよう、また知りたいこと増えちゃった。
質問攻めする気満々の私は顔が笑ってしまうのを隠せない。それに気付いたのかなんなのか、宇野は嫌そうに眉を寄せた。
「じゃあ、最初の質問ね?」
Inquirer
今更ノーとは言わせない。
20120504
沖島 おきしま
外堀から埋めるタイプの女の子。図書委員は成り行きでなっちゃってめんどくさいって思ってたけど、運命の出会い(笑)をしてやる気満々。
宇野良知 うの はるとも
双子の弟。根は真面目だが幼少時に色々あって擦れた。反抗期? 兄の事は嫌いじゃないが疎ましい。
杉山純良 すぎやま すみよし
双子の兄。優し過ぎて気弱な文学少年。民俗学考古学が好き。弟とは仲良くなりたいが、なり方が分からない。因みに、高校は偶然。それまで殆ど連絡も取って無かった。
ところで、純良くん全く出てなかった。ごめん。ってことでオマケ。
少し仲良くなった頃(沖島と純良)
「杉山くん、何読んでるの?」
「あ、これ?」
「うわっ何かすごい古そうだねぇ」
「これはね、原書のコピーなんだ」
「へぇー…、え、これ何語?」
「日本語だよ」
「うっそ、本当に? 全然読めないよ!?」
「ふふ、まぁ昔の字だからね」
「え、でも杉山くんは読めるんだよね?」
「ちょっとだけね」にこり
「(控え目スマイル頂きました!)でもすごいよ、杉山くん! 博識!」
「そ、そんなこと、ないよ」照れ
「(照れてる、可愛い!)」
こんな感じに攻める沖島ちゃんはきっと肉食系女子(猫被り)。
ススム モクジ モドル