QOL
シリアスなりそこないです。軽ーく流してください。
氏名 井宮 琴子 いのみや ことこ
年齢25歳 性別女 身長157p 体重42s
製薬会社で派遣社員として勤めて2年目 生活態度は良好 煙草は吸わない 酒は嗜む程度(未成年時に多少遊んだ模様) 恋人は3年前からいない 実家暮らしで両親共に健在 兄が結婚して、甥っ子(1歳2ヶ月)が1人いる
性格は良く言えばおおらか、悪く言うと大雑把 楽天家でポジティブ 動物と子どもに弱い
色素の薄い髪を持つ少年はファイルに書かれた情報を声を出さずに読み上げた。今、昏睡状態になっている彼女を前に。
q o l
自動車学校で教わった事のひとつ。
「もし、車道に動物が飛び出してきたら。下手に避けたりブレーキをかけたりしないで。…可哀想だけどね」
教官曰く、人身事故を起こすよりはそのまま手を合わせてしまった方が良いと言う事らしい。動物の命より、人間の命を優先して。理屈は分からなくもないけれど、実際どうなるかは分からない。
琴子はぼんやりとそんな事を思い出していた、心電図や色んな機械に囲まれベットに横たわった己を見ながら。
とある病院の個室には先程まで医師や看護師達がいたが、琴子の状態を彼女の両親に告げた後、出て行った。意識不明の重体、いつ目覚めるかいつ逝ってしまうか分からない。
その言葉に彼らは泣き崩れた。泣いて泣いて、泣いて、今はもうピクリとも動かない。眠ってしまったのかもしれない、祈っているのかもしれない。
彼女は、琴子はそれら全てを俯瞰していた。眠っていてくれたらいいと思った。半透明な身体になってしまった己では、何も出来ないから。
琴子はそっと両親の傍らに降り立つ。そして己の顔を覗き込んだ。酸素マスクや包帯で括られた眠り顔は存外、安らかだ。
「…自分の寝顔ってもっとマヌケかと思ってたわ」
「おい、第一声がそれかよ!」
「だって自分の寝顔ってなかなか見れないじゃない?」
「だからって他に言うべき事があるだろ!」
「えー? ていうか、君は誰? 私が見えるの? あ、幽霊仲間!」
「気付くの遅ぇよ!」
声のした方を見ると、ベットを挟んだ向こう側に色素の薄い髪の少年がいた。高校生位に見える彼は濃紺のパーカーにTシャツとラフな格好だ。琴子とは違い、半透明ではなかった。
パーカーのポケットに両手を入れ、苛立たしく息を長めに吐くと少し落ち着いたようだった。
突然の訪問者に驚きはしたが、どちらかと言えば喜びが勝った。こんな風になって、初めてまともに会話が出来たからだ。しかも、なかなかのイケメンだ、まぁ年下に興味はないけれど。琴子は笑顔で彼を迎えた。
「よろしく、幽霊友達第一号!」
しかし琴子の言葉は一蹴される。
「誰が幽霊友達だ。オレは死神だよ」
「え? 死神?」
「そうだよ、死神」
「しにがみ…、死神ってあの死神?」
「他に何があるんだよ」
整った眉を寄せて睨み付けてくる彼、死神を琴子はもう一度よくよく見てみた。
琴子のイメージでは、黒いマントを羽織ってやたらと細長くてそれから大きな鎌を持っているのが死神だ。けれど、目の前の自称死神くんは黒い格好をしていなければ、鎌も持っていない。或いは鎌は隠している可能もあるがしかし…
「…死神、には見えないなぁ」
至って普通の(なかなかのイケメンでもある)高校生男子でしょう、琴子の溢した声に死神は口を引き攣らせた。
「…ふ、」
「ふ?」
「ふっざけんな! 人間と一緒にすんなよ! 今すぐお前の魂刈るぞコラぁ!」
「あらら、怒らせちゃった?」
「大体お前はまだ死ぬ時間じゃないクセに何やってくれてんだよ、面倒臭ぇ!」
「何それ、どういう事?」
捲し立てていた死神は不思議そうに首を傾ける琴子を見て、本来の目的を思い出した。
「井宮琴子、お前はまだ死ぬ時間じゃなかったんだよ」
闇色の瞳が琴子を貫いた。
「人間、生き物にはそれぞれ時間がある。その長さは千差万別、全て異なる。井宮琴子、お前の時間はまだあった。なのに、お前は今、生死の境をさ迷っている。…なんだって飛び出してきた犬なんか避けるんだ、しかも反対車線に!」
目頭を押さえて俯き、おかげでこっちは大わらわだの、初仕事がこんなだのと何やら溢している。長過ぎるため息に、大変そうだなと琴子は不憫に思った。
「なんか、すいません」
「はあー…そう言えば、取り乱したりしないんだな」
「へ?」
「大抵の人間はオレを見ると叫んだり怒鳴ったりするぞ」
「あぁ、でも、死神くんにあたっても仕方ないでしょう」
「もっと生に執着はないのか?」
死神は探るように琴子に言い放った。強がって平気な振りをする人間がいる事も知っていたからだ。琴子の場合はまさに不慮の事故、生き返らせろと不様に縋るだろうと思った。
琴子は死神の視線を気にも止めず、腕を組んで考える。執着するような事はあるだろうか。答えはすぐに出た。
「うーん…、あんまり?」
「…」
「あぁ! でも、やっぱりちょっとあるかも」
「なんだよ、あるのかよ」
「ケータイのデータとか消去したいし、昔書いた手紙とか変顔の写真とか色々片付けたい!」
「アホか! もっと他にあるだろが!」
平然と言いのける琴子に死神は驚きを隠せない。
「他? んー…あ、そう言えばあの時の仔犬は無事かしら?」
あまつさえ、犬の心配をしている。事故の、昏睡状態の原因のひとつであるというのに。まるで分かってない顔で死神に聞いてくる。
「ねぇ、死神くん。どうなったか知らない?」
琴子の瞳に翳りは見えなかった。
「…無事だ」
根負けして告げる死神に、琴子は良かったと両手を合わせて喜んだ。
「本当に良かったわ。避けたかいがあるってものね」
「随分あっさりだな。こんな事で死んでいいのかよ?」
「そうねぇ、まぁ、あんまりよくはないけど。今更じたばたしてもねぇ」
「…、家族は、」
「うちの家族なら乗り越えてくれるわよ、きっと」
「死ぬ覚悟が出来てるとでも言うつもりか」
「だって。その為にきみは来たのでしょう?」
だから仕方ない、そんな風に琴子は笑った。
琴子に後悔がない訳ではなかった。やりたい事も行きたい場所も山ほどある。両親に孝行だってしたい、兄夫婦と甥っ子ともっと話をしたい、友達と遊びたい、彼氏を作りたい、結婚をして家族を持ちたい。考え出せばキリがないのだ。
けれど、出来ないものは仕方ないじゃないか。終わりは必ずあるもので、例えばそれが決まっていたとしても己では分からない。唐突に来る事もあるだろう。
覚悟と言えるほど確執たるものではないが、受け入れる心構えは、なんとなくではあるが出来ていた。
それもこれも死神だと言う少年が現れてくれたおかげだった。たった独りで浮いていた時とは違い、どこか落ち着けたのだ。
死神には到底見えないけれど、引導を渡されたように思えた。だから琴子は笑っていられる。
「諦めてるんじゃないのよ」
ただ、ただ許しただけ
そう言って笑う琴子に、希望になるのか絶望になるのか分からない事実を死神は口にする。
「お前が今すぐ死ぬとは限らないぞ」
もしかすれば目覚める事が出来るかもしれない。逝くも起きるもお前次第だ。
「オレはそれを見届けに来た」
クオリティ オブ ライフ
どうやら私はまだ終わりではないみたいです
20111203
井宮 琴子
原付自転車で帰宅途中、事故に遭い幽体離脱。当人の心境、死んだかと思ったが生きてはいるので、一応安心。
新人死神
黒いマントとかやたらデカイ鎌とか持ってないけど死神。外形年齢は十代後半、高校生。色素の薄い跳ねた茶髪、中々の美少年。
琴子の魂を見守りに来た。危機感のない彼女にイライラ。短気で心配性。
入りきらなかった会話
「あれ? ねぇ、もしかして太一(甥っ子)には私達、見えてる? さっきから妙に目線が合うんだけど…」
「あぁ。赤ん坊は見えるんだ」
「へぇ! そうなんだ! わーい、たーくん、琴ちゃんだよー久しぶりー」笑顔で手を振る
「……悠長な」
しばし楽しむ
「赤ちゃんがさ、たまに空中見て笑ったり急に泣き出したりってこういう事だったのかな」
「そうかもな」
「ふふ。ちょっと嬉しいー。 でも、どうして見えなくなるのかしら?」
「…見えないんじゃない。見ないんだよ」
「どういう事?」
「人間は成長するにつれて常識や固定観念を身に付ける。それらが悪いんじゃないが、それらのせいで見ようとしなくなるんだ。幽霊だの死神だのはあり得ない、だから見えない、見ないんだよ」
「…ふむ。つまり、子どもの頃にしか見えない妖精やちっさいオッサンみたいな感じね。成る程!」
「なんか違う。つーか、真面目に説明したオレが馬鹿だった」
「違くないって。大体合ってるわよ、きっと」
「この前死神くんはさ、大人が見えなくなるのを見ようとしないからって言ってたじゃない? でも、私はそれで良いんじゃないかと思うのよ」
「は? なんで?」
「だってさー死んだ人間がいつまで経っても見えてたらどっちも前に進めないでしょう」
「……」
「そりゃあ、いなくなったと思った人にまた会えたら嬉しいけど。ずーっとそのままじゃあ、きっと変わらない。死者は天国にいけないし生まれ変わるチャンスも逃すかもしれない。生者は過去を引き摺ったまま新しい出会いを棒に振るかもしれない。それじゃあ世の中が廻らなくなっちゃうとは思わない?」
「……」
「だから。だから良いのよ、見なくて。幽霊は見えなくて良いの。」
「琴子」
「だって、そんなにいっぱい幽霊が見えたら怖いでしょう?」
「……、お前はまだ死んでないけどな」
「ちょっ、折角いい事言ったのに!」
淋しいと泣いてたのは誰だよ
続、かない
ススム モクジ モドル