イザベルとコットン
暗い闇を照らす方法はいくらでもあるよね。電気をつける、ロウソクやランプに火を灯す、日の光りを入れる、それからぼくら魔法使いなら光りの呪文を唱えるのもありかな。ね?いっぱいあるだろう?………でも、その方法すべてが使えないとき、どうする?
見習い魔法使いイザベルと兄弟子のコットン
兄弟子のコットンくんはイザベルの目線に合わせてかがんで言ってくれた。
兄弟子とは言っても、コットンくんはすごいまほう使いなの。指を鳴らせばカンタンにものを消すことも、口笛を吹きながら空をさんぽすることも、腕をふっておいしいケーキを作ることも、なんでもできるの。けれどお師匠さまはコットンくんをまだ1人前とはみとめてくれないのよ。ふしぎね。
イザベル?
うーん、まほうを使っちゃいけないの?
そう。魔法も自然の力も科学の力も使わない。自分の力だけで闇を見る方法、なんだと思う?
やみを見る?
照らすのではなくて見るってどういうこと?と、ふしぎに思っていたらコットンくんが、ぱん、と両手を合わせてまわりの灯りを消した。真っ暗ではなかった。窓から月の光りが入っていたから。ほんのり光る月でぼんやりコットンくんが笑っているのが分かった。
闇の中で見るって言ったほうが分かりやすいかな?
やみの中で…?
そうだよ
コットンくんは小さくうなずいた。
やみの中で見るなんてできるのかな?光りがなきゃなにも見えないのに。今だって月の光りがあるからなんとか見えてるけど、それだってぼんやりとしてて見えないもののほうが多いの。
そうやって考えてたらコットンくんが指をぱちん、鳴らして月の光りさえも消してしまった。
暗闇。
コットンくん?……コットンくん、いるの?ねぇコットンくん?
なにも見えない。暖かいベッドもお師匠さまからもらったテディベアもコットンくんもなんにも見えない。
こわくなってコットンくんを何度呼んだ。でも返事はなくて、わたしの声がやみに消されていくみたいでもっとこわくなった。だからもっとコットンくんを呼んだ。
コットンくん!どこ!ねぇコットンくん!
イザベル、僕はここだよ
コットンくん!
ごめんね?ちょっとふざけ過ぎたかな
ううん、コットンくんがいるならいいの
むちゃくちゃに振っていた手をコットンくんがやさしく握ってくれた。温かい手。ほっとする。あぁよかった。
それからコットンくんはわたしを落ち着かせるように頭をなでてくれた。まるでわたしが見えてるみたいに。
コットンくん、もしかして見えてるの?
もちろん
ええ!どうして?イザベルにはなにも見えないわ?
あのね、イザベル。ある事をすると見えるんだよ
あること?…それがさっき言ってた、やみを見るほうほう?
そう
声しか聞こえないけどコットンくんが笑っているのは分かった。でもコットンくんが言ってるのはそういうことじゃない。光りがなくても見えるほうほうってなんだろう?
……イザベルでもできる?
できるさ!誰だってできる事なんだからね
まほう使いも……かがく者も?
魔法使いも科学者も王様も農民もみんなみんなできる、すごくカンタンな事だよ
まほうじゃなくて誰でもできて…カンタンなこと?あぁもう全然分かんないわ!早くイザベルもコットンくんと同じようになりたいのに!
分かんないようコットンくん!
んー、…じゃぁ目をつむってごらん
イザベルが根をあげるとコットンくんはそう言ってイザベルの目をふさいだ。温かい手に安心した。
それから7つ数えて
うん。…いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく、なーな!
よくできました。もう目をあけていいよ、イザベル
………わ、あ !
コットンくんの手がはなれて目をあけたら、コットンくんがいた。暗いのは変わらない、光りは一切ない、暗闇。なのにコットンくんはそこにいた。コットンくんだけじゃない、テディベアもベッドもさっきまでなくなっていたもの、ぜんぶが見える。やみが見えるの!
コットンくん!見えるわ、イザベルも見えるの!すごい!真っ暗なのに!……あれ、でも、どうして急に見えるようになったの?コットンくん、まほうを使ったの?
魔法なんて使ってないよ。イザベルの力だけで見えるようになったんだ
イザベルの力?イザベル、なにもしてないのに?
何もしてなくはないだろう?さっき何をしたっけ?
さっき?…かずを数えたわ
それから?
それから………あ、目をつむっていたわ
その通り、と言うようにコットンくんはイザベルの頭をぐちゃぐちゃになでた。
正解だよ、イザベル
目をつむっただけよ?
そう。ほら、カンタンだろう?
本当!とってもカンタンね!…でも、どうしてそれだけで見えるの?
それはね、イザベルの目が闇に慣れたからなんだよ
慣れた?
目はね、イザベル、魔法を使わなくたって光りがなくたって見えるんだよ。だから、忘れないで
コットンくん?
ぎゅっと抱きしめられてコットンくんの顔が見えなくなっちゃった。
忘れないで、イザベル。暗闇に落ちたとしても見ようとすれば、光りはすぐそばにあるんだって事を。光りはいつも、イザベルの中にあるんだって事、見えないものなんてないんだって事を……忘れないで
コットンくん…?
イザベルにだけは、…忘れないでほしいんだ
………うん、忘れない。イザベルはコットンくんが大好きだもん。コットンくんが言ったこと、忘れるなんてしないわ!
できり限りの力でコットンくんを抱きしめ返した。そうするとコットンくんはもっとぎゅうっとしてくれるから。イザベルはうれしいんだよ。
いつの間にかコットンくんのまほうは解けていて、窓から月の光りが照らしていた。
太陽も月も、電気も炎もなくても、光りは必ずそばにあるから。信じていればいつかきっと、また暖かく光るから。忘れないで、そばにいること。
20110401
蛇足的設定
イザベル
見習い魔法使い、10歳前後
魔力がセーブ仕切れず、親に持て余されていたところでお師匠さまに貰われた子。コットンに懐いてる。絶対信頼。お師匠さまは尊敬。甘えたっ子
コットン
準魔法使い、10代半ば
イザベルの兄弟子、基本的にいつも一緒。可愛い妹って思っている。魔力は強く、知識も豊富だが、まだ1人前ではない
お師匠さま
魔法使い
イザベルとコットンの師匠。他は謎
「」←コレ付けるの面倒くさいんじゃないですよ?よ?雰囲気です!…多分(え?)
ススム モクジ モドル