こうかん



病み気味です後味悪いです救われません注意してください





わたしは、彼がいればよかった
彼は、わたしがいればよかった

結局わたし達は
いつまで経っても―――







休日(って言っても平日なんだけど2人揃って休みって意味)の夕方に2人でのんびりできるなんて久しぶりで、でもだからといって特別な何かをする事もなくリビングのソファに座ってテレビを見ていた。外に出たってどうせ人ごみに苛立ってしまうのがオチ。遊園地も水族館も、まして映画館などもってのほかだ。あんな人だらけの所にいたらたまらない。わたし達は人ごみが嫌いだ。


「ねぇチャンネル変えていい?」


テレビのリモコンを持ってそう聞くと彼はいいよ、と頷いた。わたしは彼に体を預けて、彼はわたしに寄りかかって座っているからやたらと顔が近い。横に向くだけで彼の首筋が目に入る位置、鼓動が聴こえるこの場所は心地よくって動きたくなくなる。

何を見ようかとリモコンで番組表を表示した。日が暮れる頃のニュースが始まる前はなぜかドラマの再放送が多いと思う。リアルタイムで見れなかったから見てたり、何度でも見ちゃうドラマだったり。今日の選択肢はお茶目なご隠居とお供達の全国津々浦々人助けな時代劇か、月曜日の夜にやっていた爽やかと見せかけてドロドロな恋愛物か、2人組みの警官が勝手に捜査してでも人情は忘れないで犯人を逮捕する刑事物。その中でわたしが選んだのは、


「…刑事ドラマ好きだったっけ?」
「ううん」
「え、じゃぁなんで見るの?」
「しょーきょほー」


だって時代劇は将軍さま派なんだし、せっかくハッピーなのにドロドロ恋愛ドラマなんて見たくないの、と言えば彼は少し呆けていたけどすぐに笑って、だから君がすきなんだ、なんて言った。言葉そのものは嬉しいけど、彼の表情を見るに確実にバカにって言うか呆れ?うーん、とにかく真面目ではなかった。だから下から(身長差でわたしが必ず下になるんだけど)睨んであげた。


「………」
「ごめんって」
「ニヤニヤしながら謝られてもね」
「だって、ね?」


男が首斜めにして、ね?とか言っても可愛くない。呆れて、でもずっと睨んでもいれなくて(むしろ笑いそうで)ため息を吐いてごまかした。そして彼から目線を外してテレビに向けた。暗にテレビを見るから話はもう終わりと示して。既にドラマのオープニングは終わっていて本編が始まっていた。

わたしはドラマや映画を見るときに話しかけられるのは好きじゃない(自分から話すのは有り、ていうワガママぶり)。それを彼も知ってるから、わたしがテレビを見始めたら話しかけてこない。だから2人きりの部屋に響くのは、テレビの中の人の声だけになった。

そのまま少し経って、ドラマは中盤に差し掛かっていた。事件の概要がほとんど分かってきたときに口を開いたのは(もちろんなんだけど)わたしだった。


「良いこと思い付いちゃった」
「ん?」
「わたし達もコレやろうよ」
「コレって…このドラマの?」
「そう」


彼がテレビを指差したからわたしは笑って頷いた。ドラマでは刑事が推理を始め、それを根拠に証拠を探していた。


「また急だな」
「良いアイデアでしょ?」


さっきの彼みたいに首を斜めにして聞いてみた。それに気付いた彼は苦笑していた。


「ドラマに感化された?」
「うん。この犯人みたいにやろうよ」


わたしが笑えば彼も笑った、さながら共犯者の微笑みだ。残念ながら犯人は刑事の思惑通りにミスを犯し、自供を余儀なくされた。まぁドラマでの犯人は必ず捕まらなければならないんだけど。わたし達は大丈夫、何にも捕まりはしない。


「でもさソレと心中って一緒じゃない?」
「違うわ。心中は自殺と自殺でしょ?自殺は赦されない。自分で自分を終わりにしたら一緒にいれないと思わない?でもコレはわたしがアナタを、アナタがわたしを殺すの。そうすればわたし達は永遠に一緒にいれるわ」
「なるほど」
「いいでしょ?」
「いいね。互いの終わりを手に入れた僕らを引き離すことは誰にもできないってワケだ」


最高だよ、と彼はわたしを抱き締めた。もともと無かった距離がさらに無くなって密着度が上がった。

わたし達は常々不満に思っていたのだ。わたしと彼はどうしたってひとつにはなれないことを、時間がわたし達を引き裂こうとすることを。わたしは彼がいればいい、彼はわたしがいればいい。それだけで十分なのに、この世界はそれを認めようとしないのだ。


「方法はどうしようか?」
「そうね、簡単な方がいいわ。それで出来るだけ同時に」
「なら首を包丁で一突きがいいんじゃないかな。頸動脈が切れれば即死らしい」
「ステキね!」


わたし達はまるでデートの待ち合わせ場所を決める時みたいにわくわくしていた。ドラマはいつの間にかエンディングを迎えていたけれど、もうどうでもよくなっていた。


「ちょうど同じ包丁が二本あるわ」
「あぁ、前に僕が間違えて買ってきたやつだろ?」
「そうそう」
「あの時は結構きみに怒られたけど役に立ったね。まぁ僕は怒られ損だけど」


包丁を取りに離れていたわたしはソファに座り直した。手にしていた包丁はソファの前のテーブルに置いて、拗ねたように口をすぼめる彼の頭を撫でた。子ども扱いを嫌う彼だけれどこういった甘やかしは好きみたいで、彼は腰を屈めて嬉しそうにわたしの胸にすり寄ってくるのだ。わたしもどちらかと言えば頼られるより甘える方がいいんだけど、彼をこんな風に甘やかすのは嫌いじゃない。矛盾だ。

思う存分甘えたわたし達は体を少し離し、目線を合わせた。彼が包丁を取って一本をわたしに、もう一本を彼は握り締めた。同じ色、同じ形の包丁はキラリと光った。


「正面からと後ろからと、どっちにする?」
「後ろからにしましょう?抱き合って首と首をくっつけるみたいに刺したら繋がる気がするわ」
「じゃあ深く深く突き刺さないとだな」
「えぇ、勢いもよくね」
「思いっきりグサリ、だ」


彼はわたしを刺す真似をして、にこりと笑った。無邪気に笑う彼がわたしはすきだ。いとおしくていとおしくて、空いている手で彼の頬に触れた。温かみを持ったそれはわたしを安心させる。こんな幸せな瞬間に終われるなんてわたしはなんて幸福なんだろう。しかも彼の手によって終わるのだ、これほど幸運なことはない。そう言えば彼は僕もだよ、とわたしの耳元で呟いた。


「ねぇ」
「うん?」
「もっと。もっと強く」


抱き締めて、という音は声にならなかった。言う前に彼がわたしを抱き締めたからだ。強く強く、背骨が軋むくらいに、呼吸なんか出来ないくらいに。


「すき、すきよ。だいすき」
「僕もだいすきだよ」
「じゃあこのままいっせーの、で」
「うん」


抱き締めていた腕の力が弱まって彼が構えたのが分かった。わたしも彼の首に包丁を持っていった。あとは力いっぱい刺すだけ。幸せな瞬間。彼の心臓とわたしの心臓の音が混ざって聴こえた。彼はわたしの頭を撫でて、内緒話をするように小さな声で言った。


「準備はいい?」
「もちろん」

「「いっせーの、 !」」


グサリ、










(次のニュースです)(昨夜午後8時過ぎに××市のマンションの一室で男女二人の刺殺体が発見されました)(被害者はマンションの住民の××××さん××歳とその恋人の××××さん××歳です)(発見者によると二人は抱き合うように互いを刺し倒れていたそうで警察では心中を図ったとみて捜査しています)(では明日の天気予報です)




警察が他の誰かが二人の真実に辿り着くことはなかった。



交 換 殺 人



わたしは、彼がいればよかった
彼は、わたしがいればよかった

結局わたし達はいつまで経っても


ふたりよがり、なんだ




20101129


ススム モクジ モドル



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