質屋

ほとんど会話文です





割と都会な街の中、人が賑わう隅っこにその質屋はある。昭和何年だかに建てられた古い一軒家の一階には所狭しと色んな物が置かれていた。古本に欠けた食器、しおれた黒い薔薇の花束、黄ばんだワイシャツ、やたらとデカいテディベア、首のないビーナス像、落書きにしか見えない絵画、エトセトラエトセトラ…一見ガラクタにしか見えないそれらは質屋の主の収集品、もとい質屋に売られた商品だ。

今日はその集まり過ぎた商品を整頓する日だった。




「マスター。これどこに置くの?」

「それは奥の和室にお願いします」

「はいはーい。それにしてもこんなん取っといてどうすんだか」

「ちょっと売り子さん、こんなんってヒドくないですか?」

「こんなんで十分でしょ、割れたブタの貯金箱って何すんの?使えないじゃんゴミじゃん」

「ゴミだなんて!これは小さな女の子がずっとお小遣いを少しずつ貯めて貯めて母親にカーネーションをプレゼントしようとしてやっと花束買えるくらい貯まって壊して買い物に行って途中にあったクレープ屋の匂いにつられてイチゴクレープを勝っちゃった金色のブタ貯金箱なんですよ!」

「………」

「なんですか?」

「くだらない」

「なんでですか!?感動的な話じゃないですか?」

「は?それより時計はないの?時計は」

「また持ってく気ですか?何度も言ってますがこの店の物は俺の大切な収集品なんですよ!勝手に持ってくのは止めてください」

「だから何度も言うけど私は時計が大好きなの。なんと言われようと時計は貰うから」

「…ちょっ、売り子さん」

「絶対に!何が何でも絶対に時計は貰うからね」

「はぁ…売り子さんなら仕方ないですね」

「最初からそう言えばいいのに」

「大切にしてくださいね?」

「当たり前じゃん。そう言えばペットは?いないの?」

「上にいると思いますよ。ていうかペット呼びは変えないんですか?」

「え?だってあいつペットで返事するよ?ダメ?」

「や、ダメじゃないですけど…彼は人なのになぁと」

「でもペットって猫目に猫っ毛で猫っぽいじゃん。しかも気まぐれで寒がりでよく丸まってるし。だからペットでいいじゃん」

「ううーん…まぁ確かに似てますね」

「でしょ?」

「でも珍しいですね?売り子さんがペットくんのこと気にするなんて…はっ!まさかロマンス!?ロマンスが始まったんですか?!」

「ふざけんな。おっさんが目キラキラさせんな。キモい」

「ぉ、おっさ、ん…キモ?…ぐず」

「あぁもう。スーパーで安売りしてたからサンマ買ってきたの。だから昼ご飯にでも食べようかと思っただけ。ペットもマスターも好きでしょ?」

「…サンマ…?はい!大好きです!」

「でしょ?ペットなんて魚ならなんでも好きだしあるのに知らせなかったら後々うるさいじゃん」

「…売り子さん、」

「なに?」

「君はなんだかんだで本当は優しい子ですね!」

「別にあんた達のためじゃないわよ!」

「(おぉツンデレ!)」

「なんてツンデレ展開なワケないでしょが!なんだかんだってなんだ。私はいつだって優しくて可愛いっての!」

「…はい、その方が売り子さんらしいですとも、えぇ」

「目逸らすな」




サンマ焼きました




「いい香りですね」

「マスター、そろそろペット呼んで…あ」

「?…あ」

「………………サンマ」

「起きたんですかペットくん」

「………サンマの…匂い…」

「そうそう、サンマ焼いたの。よく分かったね」

「………たべたい」

「売り子さんがみんなで食べようって買ってきてくれたんですよ」

「……ありがと」

「はい、どう致しまして。準備できたし食べよう!さあ座って座って」

「………うん」

「では頂きます」

「いただきまーす」

「…いただき…ます」

「美味しいですね!」

「…うん、おいしい」

「あ、あとペットにはホットミルクでマスターにはオレンジジュースね。はい、どうぞ」

「…どうも、ありがとうございます」

「………ありがと」

「なに?どうかした?」

「いえ、今日はやたらと甲斐甲斐しいなぁと」

「だから私はいつでも優しいって言ったでしょ。素直に感謝したら?」

「そうですね…売り子さん本当にありがとうございます!」

「はいはい。ペットは?」

「………ありがと、売り子」

「ふふ、感謝されるって気分いいわー。でもあとで代金請求するからね」

「…やっぱり」

「(売り子さんって…)」

「なにか?」

「「なんにもありません」」




ここは天童質屋。倉庫で眠っている骨董品から宝石、家具、服、本、食器、なんでも買い取ります。ぜひ一度ご来店ください。



天童質屋の毎日

従業員一同、今日も元気にお待ちしております。




20101121






蛇足的解説


店長(マスター)
ガラクタ収集が趣味。他人からしたらゴミ同然でも彼にしたら宝物。買い取ったものは売った人以外には絶対渡さない(売り子以外)。どうやって生計を立ててるのか不明。普段はおとなしいが収集物のことになると人が変わる。何故か自分のことを『マスター』と呼ばせる。


店員その1(売り子)
マスターが集めるガラクタには興味ないが、時計がすき大好き。自室にはそこら中に時計がある。売り子以外は居れない眠れない(秒針がうるさいから)。店に来た時計は問答無用で売り子がもらう。珍しい時計が来たりするからバイトしてるだけ。売り子の仕事はあんまりやんない、客が来ないから。


店員その2(ペット)
一応正社員なのにほとんど店に出ない。やる気がない。猫目に猫っ毛だから売り子に猫(ペット)扱いされてる。ホットミルクと焼き魚があれば文句ない。本当に猫かもしれない(と、マスターが最近思い始めた)。


天童質屋
都会の片隅にある二階建て一軒家の一階に店を構えてる。扉は大きなガラス戸、中丸見え。二階はマスターとペットが住んでる。売り子は徒歩20分のアパート暮らし。



ススム モクジ モドル



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