あたしの話、聞きたい?

うんじゃぁいいよ、話たげる。

知ってるでしょ?あたしの住んでるところは山の中の奥深くにあるの。ほら、夏に川に遊びに行ったりしない?それか秋に紅葉を見に行ったりしない?そういう時、車で曲がりくねった道を行くと突然ポツンと家があったするじゃない。そうそう、あいう感じのところ。

あんな山奥でも案外ちゃんと暮らしていけるんだよ。小学校も中学校も徒歩で通える範囲にあったし。ただ疎開化なんだか少子化なんだか知らないけど、子どもの数は少なくなったんだって。小中学校を合わせても27人しかいないの。あたしと同い年の子、いなかったし。昔は一学年に10人以上いたらしいけど。ん?昔から少ないって?仕方ないじゃん、こんな山奥にそんなに人がいるバスないんだから。

でも生まれてからずっとここにいるあたしからしてみたら普通だったけどね。価値観の違い?まぁいっか。

で、少ないながらも中学校を卒業して高校に行くことになったんだけど。流石に高校まではなくてあたしは山を下りた街にある学校に行くことにしたの。

そう、この学校。あたしの家からだと、山を下りるのに車で約30分かかって、そこからさらに車で30分行ったところにこの高校はあるの。びっくりされてもね…これでも一番近いトコ選んだんだからね!それなのに1時間かかるなんて!しかも車でだよ?免許ないっての。父親も母親も祖父も仕事(農家)があるから送り迎え無理とか言うし!だったら高校行けとか言うなよっ!

……あ…えー、こほん。まぁ行き帰りで2時間かかるからね、無理だろうとは思ってたの。だから自転車で行こうと思ったんだよ。行きはほぼ下り坂だから楽チンだし、帰りはちょっと大変かもだけど大丈夫だろって思ってたのさ。

それで入学式前日、試すことにしたワケ。え?もっと前にやれって?いや、だって大丈夫イケるって思ってたんだよ。

で、自転車乗って下り坂をびゅんびゅんスピード上げて行ったらだんだん楽しくなってきちゃって。きゃほーやほー!とかやってノリノリで走ってたら、…急カーブに差し掛かってね?やばって思ってブレーキ握ったけど、出てたスピードがスピードだったから止まらなかったよ…キーってか、グキイィィィ!!って森中に音を轟かせながらガードレールに突っ込んだからホント色々終わると思ったよね、アレは。

結果あたしは無事だったけどね!膝やら腕に擦り傷できたくらいですんだし。ただ自転車がね、大破とまでは言わないけど前のタイヤやらカゴやらがベッコベコになっちゃってね…(遠い目)お母さんに怒られたよ、「せっかく新しく買った自転車なんだから大切にしなさいって言ったのに!」って…。

それからやっぱりなんだかんだで自転車じゃぁ危ないだろって話になって、それなら確かバスがあったよねってなってバス通に決定になったの。

なったんだけどね、山の中のバスだよ?どどど田舎のバスだよ?ちゃんと走ってんのかと調べたらって言ってもバス停に時刻表見に行っただけだけど。ちゃんと走ってはいたよ、日に2本だけどね!1日に2本だよ?6時と2時のみだから選びようがないよね。始発の6時35分。それに乗るしかない。でもさ、学校は8時半までに着けばいいのに、乗り継ぎがあるって言っても1時間ちょっとで着くってことは7時半過ぎには着くってことでしょ早すぎ!

だけどあとは徒歩しかないから。流石に徒歩は無理だよ。だから毎朝頑張ることにしましたよ、えぇ、早起きなんか大っ嫌いなのに。

最初は嫌だったね。眠いし学校で知り合いなんていなかったからポツンだったし。今は友達もできたし時間の有効活用(宿題)できるようなったからいいんだけど。ていうか一番の理由はバスにあるんだけど!

ホントだよね、長かったねやっと本題だよ!

そう、最初は眠いしひとりぼっちだしで嫌で仕方なかったの、バスの中が。始発だから他に誰も乗ってないし山を下りるまで停留所ないからね。 だけど少し経って早起きには慣れないけど、静かなバスの中は慣れてきたの。バスって普通車よりも車高が高いじゃない?だから眺めがそれまでと違うの、目線がちょっと高くなるだけこんな景色変わるんだーって思ったり。どうせ30分はあたし以外乗客いないからバスの中で朝ご飯食べるようになったり、最初は運転手さんに怒られるかなと思ってたけど何も言われなかったし。

それにしても運転手さんも大変だと思わない?朝も早く、んと単純計算すると…6時前から働いてるってことでしょ?一体何時に起きてるんだろうね?あたしなら確実に起きれないね。だって6時前からってことは確実に5時には起きなきゃじゃない?日の出と共におはようとかウチのじーさまと一緒だからね!

え?あ、ごめん。話脱線してたね。はい、戻します。

なんだっけ?…あぁそうそうバスに慣れてきて、でも楽しいってワケじゃなかった。苦痛ではないけど愉快でもなかったんだよね。それが今じゃ最上の至福のひとときになっちゃったんだな!





時は遡って6月上旬。学校に慣れバスに慣れ早起きにもそこそこ耐久ができた頃。色んなことに対して気が緩み始めていた彼女は、のんびりゆったりと過ごした土日が明けた月曜日。まんまと寝坊をした。

自力で起きれないことは百も承知の彼女は目覚まし時計を3つ用意して、母親にも6時までには起こしてもらうように頼んでいた。しかしその日は3つの目覚まし時計を華麗にスルーし、最後の頼みの綱の母親も彼女が起きたと勘違いしていたのだ(母親のかけ声に起きてる!と寝ぼけて返事をしていたのだから母親に非はないだろう)。

そして彼女が目を開き時計を見ると6時半を指していたから大変だ。バス出発まであと5分。バス停までは徒歩5分、走って2分程度か。

飛び起きた彼女はできうる最高の速さで準備をして鞄にお弁当と朝ご飯のおにぎりを詰め込み、家を飛び出した。走って走ってバス停を目指す彼女はなかなか危機迫るものだった、と彼女の祖父は語る。なにしろ、始発のバスを逃したら朝から長距離マラソンか父親に頼み込んで車を出してもらうか、2つに1つだ。ちなみに彼女の中で後者は有り得ないので選択の余地はなかったりする。

6時35分を軽く10分過ぎた頃、彼女はやっとバス停までたどり着いた。半分以上は諦めて、いつもバスが止まっている村役場の駐車場に入った彼女は驚きに一度足を止めた。なんとバスがまだいたのだ。我に返った彼女はスピードを上げてバスに走り寄った。すると閉まっていた後方のドアが開いた。彼女は勢いのまま乗り込んだ。


「寝坊しました!すみませんっ!!」


車内も駆け抜けて運転手の横まで来た彼女はよく通る声でそう言った。幾分か驚いた運転手だったが僅かに顔を和らげた。


「大丈夫です。発車します、席に着いてください」


マイク越しの声に彼女は一度お辞儀をして席に着いた。間もなくバスは低いエンジン音を響かせ発車した。

彼女は乱れる息を整えるフリをして自分の頬を両手で隠した。彼女の頬はきれいに赤く染まっていたからだ。それは走ってきたからとも言えるがしかし、本当は違った。

運転手の思いがけない優しさに、柔らかい笑顔に、彼女は頬を赤く染めて胸をときめかせていたのだ。

つまり彼女は、恋に落ちたのだ。





ってワケで、それから毎日運転手さんを眺めるのが日課になったの!もう毎朝が楽しみで楽しみで!運転手さん、超カッコいいんだよ!声もキレイだし白い帽子から出る黒い髪は艶やかだし背中広いし腕長いし…きゃー!え?やだなストーカーじゃないよ眺めるしかできないんだもん!土日がむしろ夏休みが憎くなる日が来るとは思わなかったなぁ。

そうだよ、眺めるだけ。だって話しかけようがないじゃん。運転手さん仕事中なんだし。あ、ちゃんと降りる時に「ありがとうございます!」は言ってるよ、笑顔でね!

うん、まぁ確かに長いよね。かれこれ…10ヶ月?うわー長い、あたしってば一途だよね!

なにさ、1年最後なんだから恋バナしろって言うから言ったんだよ?あたしのは恋じゃないとでも?そうでしょ恋でしょ。いいの、あたしは眺めてるだけで。



始発バスに乗ってキミに逢いたい


話が長いって?しかもよく逸れる?ごめんごめん。だってなんか恥ずかしいんだって




(本当はもっと近付きたい)

(なんて言えないけれど)



20101119

ススム モクジ モドル



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