アプローチ
 
「北さーん!!」

愛しの北さんを見つけて思わず駆け寄る。すると真顔で名字、廊下は走ったらあかんと高2になっても言われてしまった。

「あは!大好きな北さん見つけたら仕方がないじゃないですか!」
「人にぶつかったら危ないやろ。女の子やし傷作ったらあかん」
「はーい!ところで北さんは移動教室ですか?」
「そや、化学で実験あるからな。準備もあるからそろそろ行くわ」

軽く手を振り歩いていく北さんの後ろ姿。後ろ姿ですらカッコいい!!貫禄がある!あんな男前おる?制服も勿論シワ1つなくビシッと綺麗!

「はあー、かっこ良すぎる。」
「相変わらず相手にはされてなかったけどな」

北さんの後ろ姿が見えなくなるまで見ていたかったのに、急に顔を目の前に出してきた侑によって視界を遮られた。

「おまっ、俺の顔見た瞬間スンッて顔すんな!スンッてした顔を!」
「あんたの顔なんて同じクラスの時点で見飽きるのよ。チャランポランな侑の顔より北さんを見ていたいの!出来る事ならゼロ距離で見たい!!」
「お前きっしょいな、ゼロ距離て」
「だって知ってる侑!?北さん肌めちゃくちゃ綺麗なんだよ!?」

いや、そのドン引きの顔なんだ。こっちだってお前のナルシスト発言にいつもドン引きしてんだぞ。仮に北さんだったらずっと聞いていられるけど。

北さんと知り合ったのは2年になってから。侑が日直をサボった時に文句を言おうとバレー部に乗り込んだ時に一目惚れした。背筋がピンと伸びていて、めちゃくちゃ背が高いと言うわけではないのに誰よりも存在感があった。周りの子達は宮ンズかっこいいって言う子がほとんどだったけど、1番かっこいいのは北さんだと思う。

「てか、北さんの好みとか知らないわけ?」
「お前そんな気軽に聞けると思ってんのか?あの北さんやぞ?」
「だって私が聞いたら、こいつ俺に気ぃあるなってバレるじゃん!」
「今の状況でもうバレとるやろ。大好きですぅ〜って変な声で言うてたやんけ」
「…」
「な、なんやその顔…!」
「あんだけアプローチしてんのに全く相手にされてないから、仕方なく侑頼ってんじゃん!!自分でも言わすな!相手されてないって!!侑も手伝え!アホ!」
「仮にも人に頼む態度か!?それ!」
「1週間購買の特大プリンでどう!?」
「ノッた!その言葉忘れんなよ!」



他学年と会える機会なんて滅多にない。けど北さんの為なら頑張れるのが私!愛の為なら不可能を可能にする女、それが私!
こんな事を言いながら、引き気味の侑と2人で食堂を見渡すと尾白さんと一緒にご飯を食べている北さんを見つけた。流石私!!

「お!名前!北さんおったぞ!」
「よっしゃあ!侑気合い入れて行くよっ!」
「任せとけ!俺の作戦は完璧や!」

侑と自然な感じで、ご一緒してもいいですか〜?と聞くと北さんも尾白さんもええよと返事をしてくれる。北さんを追っかけを始めてから尾白さんとも今では喋れる仲になった。てか3年生皆優しいから普通に私の事もバレー部の人達みたいに可愛がってくれて有難い。
勿論北さんの向かいに座りお弁当を広げる。ありがとう、お母さん!今日のお弁当可愛い感じで!

「名字、ご飯そんだけなんか?」
「え、いつも大体はこのくらいですよ?」
「え、名字ちゃんもっと食べやな!!だからそんなに細いんとちゃう?」
「アランくん、アホ言うたらあかんよ?こいつめっちゃ腹出てる」
「な!出てないし!…多分!」

そこから私のお腹が出てるか出てないかで討論していると名字と北さんの一言で私も侑も黙った。ヤバイ騒ぎすぎたかなと不安になって恐る恐る北さんを見ると、自分の箸を持ち替え口を付けてない所でお肉を私のお弁当箱の蓋に乗せていた。

「名字はもっと食べやなあかん。口付けてないから安心して食べ」
「え、ありがとうございます…?」

有り難く北さんから貰ったお肉を食べると、北さんは満足そうに自分の分を食べ出した。
ヤバイ、幸せ…と北さんから貰ったお肉をゆっくり食べているとテーブルの下で侑に太ももを叩かれた。結構な強さで叩いてくれたもんだから痛くて侑を見ると、やれ!と言う顔で私を見てくる。そう私達の作戦はここからだ。ポケットからハンドクリームを取り出す。

「最近乾燥し始めて私手がカサカサになっちゃってハンドクリーム必須なんですよぉ、」
「お前いっつもババアみたいな手ぇしとるもんな」
「ババアって、全国のおばあちゃん敵に回せ!」

侑と2人でワザとらしい演技をしながら進める。尾白さんなんてちょっと笑ってるもん。ワザとらしく多めに出したハンドクリーム。それを手全体に塗るがやっぱり量は多い。チラッと北さんの方を見るとなんとも言えない表情でこちらを見ている。

「き、北さん。良かったらハンドクリーム貰ってくれませんか?」

両手を差し出すが、北さんは手を見て何も言わない。

ちょっと!本当にこんな事が聞くの!?
アホ言え!男はこーゆーのに弱いもんやろ!!ボディータッチとか好きや!
それ侑だけじゃないでしょうね!?

なんて目だけで会話をしていると、自分の手が何かに包まれている。見てみるとそれは北さんの手で、私は勿論尾白さんも侑も驚いていた。いや、言い出しっぺの侑は驚くのはおかしいでしょ。

「考えて出さな勿体ないで。」
「あ、は、はい。そうですネ」
「何カタコトになってるん。ん?なんや、これ匂い付いてるんか?」
「サッパリしたのが好きなので柑橘系のやつです…」
「そうか。ええ匂いやな」

少し微笑みながら言ってくれる北さんに鼻血が出るかと思った。だってあの北さんに手を掴まれているなんて夢のようだ。身体中の集中が手に行っているのが分かる。すぐに離された手だが、北さんの温もりがまだある気がする。それからは会話の内容なんて入ってくる訳もなく予鈴がなり解散となった。フワフワとした気持ちで教室に戻ると侑が自慢げな顔をしていた。

「どや!俺の作戦!良かったやろ!」
「めっっっちゃ良かった!!幸せ!けどアレはアプローチなの?」
「バッチリアプローチやろ!まあ、北さん異性としてみてるかは分からんけど」
「いや、それ1番大事なやつだから!!」
「うし、次の作戦やんぞ」
「ガッテン師匠!」



「うっわ〜、さむぅー」

昼間から晴れていたお陰で星が綺麗に見れる。体育館前で座っているとガラガラと扉が開いた。振り返ると侑がいてニタァ〜と悪戯っ子みたいな笑みをしていた。

「北さんもう少しで来るぞ!」
「了解!てか待ち伏せって北さん迷惑じゃない?」
「女は度胸じゃ!」
「侑、片付けもしやんと何して…名字…?」
「あ、北さんお疲れ様です…」
「何してんのや。」
「いや、あのっ…すみません」

今までに見た事ないような冷たい視線。耐えきれなくなって思わず走り出してしまった。どんなに忙しそうな時でも優しく接してくれていた。正直、その状況に甘えていた。優しく接してくれた北さんが初めて見せた表情。
どんだけ走ったか分からない。けど息が苦しくなってきて自然と足が止まる。息を整える為に深呼吸をすると、息が整ってきたのに今度は涙が止まらない。

「あはは…やっちゃったなあ…」

制服の袖で涙を拭う。涙が止まる気配はなく、袖がどんどん涙で濡れていった。
嫌われただろうなあ。そう思えば思うほど涙が止まらなくて人目なんて気にせず泣いてしまう。

「そんなに擦ったら目ぇ腫れるやろ。」

差し出された缶。差し出しているのは北さんだった。走ってきてくれたのか少し息があがっている。北さんらしく綺麗に畳まれたハンカチも差し出された。

「制服汚れるやろ?これ使い。綺麗やから」
「…ありがとうございます」
「あっこのベンチまで行けるか?」

北さんが指差すベンチに2人で座るがさっき逃げるように走ったせいで気まずい。北さんもいつも通りなのが余計に怖い。何か喋るべきなのか迷っていると徐に北さんが口を開いた。

「親御さんには連絡入れてあるんか?」
「それは大丈夫です…。友達と遊んでから帰るって言ってあるんで…」
「そうか、それならええわ。」

そう言うとまた沈黙が流れる。さっき北さんに貰った缶を目に当て深呼吸する。少しずつ落ち着いてはきたが、さっきの喜田さんの顔を見てしまった手前、北さんを直視する事が出来ない。かと言って帰りますと言って帰れるような雰囲気でもない。困っていると名字は…と北さんに呼ばれた。

「名字はえらい侑と仲がええんやな。いつも一緒やけど」
「侑ですか?まあ、一緒のクラスなんで結構一緒にいたりしますね。アホな事しかしてないですけど」

ちょっと皮肉っぽく言うと北さんと目があった。さっきとは違い、いつもの表情だ。

「俺はそれが羨ましいけどな。」
「え?」
「いつも侑と仲よぉしとるやろ?なんか悔しいとうか羨ましいんやろな。…俺も名字と仲良くしたいんやな」
「…それはどういう意味で仲良くしたいんですか?」

恐る恐る聞いてみると、いつも以上に優しい表情でこっちを見てくれる北さん。少しぎこちないけど優しく頭を撫でる手が温かい。

「出来れば少し特別な感じやろか?」
「ぷっ、なんで少し疑問形なんですか?」
「なんでやろうなあ、」

2人して笑いながら少し遠回りして帰った。いつもより近い距離で北さんと歩けて幸せだ。幸せだけど北さんだ。はっきりしておかないと私のご都合妄想で終わるかも知れない。

「あの…北さん?北さんは私の事を好きって解釈でいいんですよね??」
「….俺なりにアピールしてたんやけどな」
「ええ!?」
「それより名字。女の子が遅い時間に1人でおったらあかん。わかったか??」
「……はい、すみません」




「お、名前からラインや」
「やっとくっついたんか?」
「そうみたいやな。どう見てもお互い気ぃあるのバレバレやったのに本人達分かってへんだでな」
「まあ、名前はアホやしな…。北さんもちょっとズレてるし」
「まあ、俺は安心してプリン買うて貰えるな」
「ツムだけええなあ。俺も買うてくれへんやろか」
「名前アホやでな。どうせ明日テンション高いやろ言うたら買いそうやな」

なんて双子の思いのままハイテンションでプリンを買うのは明日の話。


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