デザートはコンビニで
 
「これ着てくれ」

久々に家に来たかと思ったら少しお酒臭いし、家に入ると第一声から馬鹿な事を言い出した侑を彼氏にしているのは間違いなのかも知れない。そう思いつつ持っていたカップをテーブルに置き侑の手に視線を送ると、差し出された物は稲荷崎のチアガールの服。それを見ると高校時代を思い出す。チア部だった私とバレー部の侑。色々あったけど今思えばそれなりに青春してたなあ、て昔を思い出す。

「おい!聞いてんのか!?」
「うっるさいなあ!耳元で大きな声出さないでよ!!」
「名前がボケっとしてるからやろが。とりあえずこれ、着ろ」
「いやいやいや、私幾つだと思ってる訳?てかなんであんたが持ってんのよ」
「23。まだまだいけるやろ。昔お前がここ引っ越す時に実家で荷造りしてる時に見つけたから持って帰った。」
「キモッ!!勝手に持って帰らないでよ!てか、いけるって何よ。てか絶対着ないから」
「昔着てたんやからええやないか!あっ!お前昔に比べて太ったもんなあ?もしかして着れへんから着やんって言うてんのか!?」

近くにあった枕を侑に目掛けて投げると、顔面に綺麗に当たったのかブヘッとか変な声を出している。ちょっと図星なだけに、なにも言えない。

「図星やからって物投げんな!」
「うるさい!大体なんで着なきゃいけないのよ!」
「いやな?今日試合やったやん?で、MSYBのチア見て思ってん。そういえば名前とチアプレイしてへんなってブヘッ」

さっきよりも強く投げたせいか体制が崩れる侑を無視して空になったカップを持ちキッチンに向かう。多分チームメイトと打ち上げがあり飲んでから、うちに来たのだろう。酔っ払いでデカい図体の癖に流石というか動きが早い。いつの間にかスルリと後ろから抱き締められた。もう付き合いも長いからこんな事でドキドキしたりはしないけど。

「ええやろ?俺も稲荷崎のユニホーム着るし」
「いや、そうゆう問題じゃないのよ」
「何が不満なんや。高校ん時より男前増して名前も嬉しいやろ?」
「顔で選ぶなら治くん選ぶわ。顔一緒なら性格の良い治くんがいい」
「はあ!?お前それ仮に彼氏に向かって言う言葉か!?」

騒ぎつつも相変わらず後ろから抱き締めてくれている侑の腕から逃げるように抜け出し、リビングにあるテーブルにカップを置いた瞬間視界が変わった。すぐに侑に押し倒されたんだと分かる。言葉遣いは乱暴でも、こんな時はなんやかんや1つ1つの行動は優しい。キスをする度に、甘ったるい声が漏れる自分に少し嫌になる。ん、と私が声を漏らすと満更な顔で沢山キスをしてくる侑。

「な?ええやろ?」
「…いや、着ないよ?」
「はあ!?なんでや!こんな雰囲気になったら着よかな?ってなるやろ!!」
「はあ、侑はどーゆー思考してるの?」
「名前とおもっきしエロい事をしたい」
「ばっっっかじゃないの!?何キメ顔で言ってんの?言ってる事馬鹿丸出しだからね?」
「俺のキメ顔に免じて頼む!」

余りにも必死に侑に少しならいいかな?って一瞬思ったけど、1回でも許すと何度でも頼まれそうだ。顔面が良いとちょっとキメ顔すればいいって思っている節があるからな侑。

「な?ちゃんと名前の事気持ちよくさせるし」
「本当あんた1回黙って」
「なんでや!何が気に食わんのや!」
「単純にそーゆー趣味がないからよ」

私が少し強めに言うと侑は唇を尖らせブツブツ何か言いながらキッチンへ向かった。どんなに酔っていようが、侑が機嫌が悪い時だろうが私が嫌なラインはしっかり分かってくれているみたいだ。少し強めに言うと折れてくれる。だけど自分は気に食わないから多分ビールでも飲んで気を紛らわせるんだろうなと思いながらキッチンに少し視線を送りテレビの番組欄を見ているとキッチンの方から名前!と大きな声で呼ばれる。

「冷蔵庫ん中、俺の好きなモンばっか入ってるんやけど!!」
「ほんとぉ、不思議やねぇ?」
「ネギトロとか大量にあった!ビールも!唐揚げも!!あれ食ってええか!?」
「……全部侑のだから好きにしたら」
「…もしかして名前作ってくれてたんか?」
「…多分今日来るだろうなって思ったから作っといた。」

そう、最近侑が来なかったのも単純に練習が大変だったのも分かっている。馬鹿の侑が唯一カッコいいと思えるのは、やっぱりバレーをしている時だ。それは何年経っても変わらない。私の事なんてバレーの次だろうが気にしない。打ち上げがあって遅くなろうが絶対侑は来てくれるのは分かっていたから。侑がバレーに集中出来るなら少し会えない期間があろうが、バレーが上手くできなくて理不尽に八つ当たりされようが私は文句を言わない。今回の事は別だけど!

「打ち上げあったんでしょ?無理して食べなくていいよ。明日とか私食べるし」
「アホか!食う!めっちゃ食う!!はあー!!!ほんと名前はずるいわ!なんなん!?可愛すぎるやろ!!」
「それは良かったですネ」
「ハッハーン。俺は分かってんで?今照れてるんやろ?ほんと可愛い奴やのぉ」

満面の笑みで冷蔵庫から料理を出し温めている侑が可愛いくてフフと笑っていると、目をキラキラさせながら手招きをしている侑に呼ばれキッチンに向かう。すると冷蔵庫に入れておいた料理を全て出していた。レンジで温めながら嬉しそうに喋る侑を見て作って良かったなと思える。

「名前も一緒に食おうや!」
「もう時間遅いし私はいいよ」
「名前の飯は名前と一緒に食うのが一番美味いに決まってるやろ!名前が太っても俺がもろたるわ!」
「そりゃあどうも」

温め直した料理をこれまた嬉しそうにテーブルまで運び、美味いと言いながら綺麗に食べてくれる侑も見ながら、コップに注がれたビールをチビリと飲む。今日は飲むつもりなかったのに、侑が付き合えと無理矢理コップにビールを入れて渡してきた。侑は料理を食べながらビールの缶をどんどん開けていく。

「侑、もうやめといたら?」
「明日休みやでもっと飲む!名前と飲むのも久々やしな!大分腹も膨れてきたんやけどなー…アレやな、甘いモン食いたなってきた」
「コンビニ行ってこようか?」
「アホ!女が夜に出歩くな。甘いモンならあるやん」
「いや、なにも買ってないけど??なに?幻覚でも見えてんの?」
「あるやん、ここに」

急にドアップの侑の顔にビックリして少し上半身がのけ反る。けど侑の顔は近いまま。なんならガッチリとホールドされて逃げれない。侑は真っ赤な顔をして目尻を下げヘラヘラと笑っている。そのまま押し倒されるがさっきとは違うのが分かる。今だって侑の長い指が服の中に入ってきている。触れるか触れないかギリギリの所を触るから意識してしまう。

「ちょ、…侑っ!」

なんとか出た言葉も意味がないのがすぐに分かった。さっきまでヘラヘラしていた侑はしっかり男の顔になっていた。お酒が入っているせいか、ちょっとキスをされただけで変な気分になってくる。何度されたか分からないキスが終わったかと思うと、チュッとワザとらしく音をならし耳元にキスをされゾクゾクと気持ちが高ぶる。キスだけなのに肩で息をしている自分に少し恥ずかしくなり視線を下に向けるが、侑に顎を上げられ無理矢理視線を合わせられる。

「名前」
「…っ、なに?」
「名前は俺に食われとけばええんや」
「ひ、人を食べ物みたいにっ…んっ、」

乱暴な言葉とは裏腹に胸焼けしそうなくらい甘ったるいキスをされる。さっきまでキラキラとした笑顔だったのに、しっかり男の表情になっている侑にされるがままにされる。お酒のせいなのか侑とのキスのせいなのか身体の体温が高くなっていく。漸く侑が離れたかと思うとシャツを脱いだ。ふと見ると侑の身体が少し汗ばんでいて、不覚にも綺麗だなって思ってしまった。

「ほんじゃあ、いただきます」

ふざけた事を言いながら丁寧に私の服を脱がしていく侑に少し可笑しくて笑っていると、優しく頭を撫でてくれた。いつもの間抜けな笑顔ではなく、目を細め優しい笑顔。あ、愛されているだなと実感できる笑顔。
私も精一杯侑に気持ちを返そうと、侑のキスに丁寧に答え首に腕を回す。

「ほんま名前はかわええな」

嬉しそうに言う侑に、そうでしょ?と言い返すと声を出して笑っていた。



prev next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -