ほしょく
 

「名前ちゃーん!そっちにお皿ある?」
「あ、まだ出したないから段ボールかも!ちょっと確認するね」

未開封の段ボールを開けると1枚1枚綺麗に紙で包まれたお皿を取り出し紙を広げる。お皿の端には“おにぎり宮”と書いてある。
あれから治くんとは順調に交際を続けていた。父親に治くんを紹介したら、やっとかと言われてビックリした。治くんは苦笑いだったけど。父親は治くんが私が勝手におかわりを出していた子とすぐ気が付いていたらしい。ギックリ腰をした時に治くんに肩を貸して貰っている時に治くんの気持ちは聞いていたらしい。

婿入りしても全然ええ、名前ちゃんを俺に下さい

急にこんな事を言った治くんに父親は変な奴やと思ったらしい。だが治くんの人柄をみて気に入っていたみたいで交際を告げた時はどこか嬉しそうにしていた。先日治くんからプロポーズをされ籍を入れた。それを機にお店を出した治くん。勿論場所は父親のお店があった場所だ。

「俺の我儘とは分かっとる。けど俺は名前ちゃんと出会えたこの場所でお店をしたい。親父さん達の常連さん達に名前ちゃんが幸せでおるとこを見てて欲しい」

家族の思い出が沢山詰まった場所であるこのお店を無くす事は嫌だった。けど治くんのおかげで今日、新しいお店として生まれ変わる事が出来た。治くんは父親も一緒に住もうと提案してくれたが、父親は少し離れた静かな場所で暮らすと言ってきかなかった。最後の最後まで父親は譲らず、最終的に治くんが折れる形になったが言い合いをしている父親が珍しく楽しくしていて嬉しかった。

「治くん、ありがとう」
「…なにが?俺なんかしたっけ?」
「沢山してくれたよ。これから治くんの事支えれるように頑張るね」
「俺と名前ちゃんの身長差やと名前ちゃん潰れるんとちゃう?」
「そういう事じゃなくてさっ!!」
「分かっとるよ、名前ちゃんはそうやって俺の横でギャーギャー騒いでてくれたらええわ」

大きな手で頭を撫でてくれる治くんに、もう!と満更でもない返事を返す。するとさっきまで優しく笑顔だったのに、前と同じ冷たい目に変わった。

「治くん?怒ってる??」
「なんでや。俺が名前ちゃんに怒る事なんてない!」
「本当?治くんたまに冷たい目になるから…」
「え?あー…」

自分の顎を一瞬撫でたかと思うとあの冷たい目だがニヤリとした口元でうまそうやなあってと言われいまいち意味が分からなかった。

「名前ちゃん食べるとうまそうやなって思ってた」
「え、デブって言われてるの私」
「ちゃうちゃう!性的な意味」
「はあっ!?」
「やっと俺のもんになったで一気に食べやんって決めとるから安心し」
「ちょ、」

さ、準備準備と何も無かったように動き出す治くんに対して何も言えない。治くんは悪戯っ子のような顔で名前ちゃん暖簾出してきてと普通にお願いしてくる。いつの間にか開店時間が近づいていて急いで暖簾を出すといつもの常連さんが外で待っていた。

「名前ちゃん!待ち遠しくて早く来てもうたけどええかな?」
「もうほとんど準備出来てるから大丈夫だよ」
「お、名前ちゃんお客様第1号様やな!サービスせなあかんな!」
「旦那さん太っ腹やな!頼むで!」

常連さんと楽しそうに笑う治くんを見て幸せだなと思っていると治くんに呼ばれた。

「名前ちゃん、お冷や頼むわ!」

開店初日にも関わらず沢山の人が来てくれてありがたい事に閉店時間のはるか前に完売となった。暖簾をしまい鍵をかけ、厨房横の階段で2階へ向かう。


お店の2階が実家で今は治くんと2人で暮らしている。狭いはずのこの家も治くんは何も言わずに暮らしてくれる。治くんはもう少し仕入れ増やしても大丈夫そうやなとか一生懸命今日の売り上げを見ながら言っていた。なかなか見れない真剣な表情の治くんにこっそり近付き後ろから抱きついてみる。滅多に私からこんな事をしないので最初のうちは驚いていたが、しっかりと私の腕を掴み離れないようにしている。

「珍しいやん。名前ちゃんから来てくれるの」
「…治くんがかっこいいからつい」
「……」
「治くん?」

何も返事がないから治くんの方へ覗き込もうとした時、いつの間にか治くんの胸の中に収まっていた。いつもよりしっかりと抱きしめられる形になっていて身動きが出来ない。顔が治くんの胸元に押さえ込まれているの出来ればそろそろ離して欲しい。

「はあ、」
「え、なに!そのため息!」
「名前ちゃんさ、しれっと可愛い事すんのやめてくれへん?」
「そんな事してない!!」
「いーや、しとる。ゆっくりって決めてたけどもう一気に食うたろかな。」

腕を大袈裟に動かし暴れてみるもののビクともしてない。それどころか、どんどん寝室へ向かっている気がする。治くんに抱きしめられたままベットへ倒れ込むと暫く動かない。どうしたもんかと考えていると耳元で治くんが可愛いお願いをしてきた。

「ちゅーしてや」

そう言って顔を上げた治くんは少し頬が赤くなっていた。頬にしようとすると、ちゃうこっちと言って唇を指さしている。チュッと軽くキスをすると一応満足はしたみたいで漸く解放してくれた。
けど私の考えは甘かったようで、治くんの手が服の中に入っている事に気がついた。

「治くん?この手なに??」
「大丈夫、明日に響かんようにするから」
「そういう問題じゃなくっ…ん」

さっきの私がしたキスとは全く違うキスを沢山され、自分もその気になっていることに気がつく。

いつも最後は治くんのペースだな…

いつの間にか他の考え事をする余裕がないくらい沢山治くんは愛してくれて、今は幸せそうに横で寝ている。思わず治くんの鼻を摘むと少し苦しそうな顔をするのですぐに離すとまた幸せそうな顔で寝ている。私本当幸せ者だな。枕元の電気を消し目を瞑った。

これから先も治くんが笑顔でいてくれたらいいな、と願いながら眠りについた。



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