この人一択でしょ
小さな紙を見た瞬間、あいつしか居ないと思った。
「岩泉！！私と一緒にきて！」
「お、おう！」
差し出した私の手を戸惑いながら掴み走り出す。
勝負事は何であれ勝ちたい筈の岩泉が多分、私の体力とか考えて少しゆっくり走ってくれている。
「岩泉！私の事は気にしなくていいから、ゴールまで連れてって！！無理と思ったらお姫様抱っこしてもらうから」
「それだけは勘弁してくれ」
心底嫌そうな顔をしたものの、さっきよりスピードを上げて走り出す岩泉。そのおかげで見事１位で借り物競走は終わった。
「あー、足千切れる…」
「名字は体力なさ過ぎるんだよ」
「いや、現役スポーツマンに帰宅部が頑張ってついてっただけ褒めてよ」
ギャーギャー騒いでいると「名前ちゃーん、岩ちゃーん」と及川が大声で呼びながらこちらに向かってきている。その横には松川、花巻の姿まで。
やめてくれ。あんた等目立つんだよ。デカイし。及川は勿論他2人も。なんなら岩泉も。
「１位とか流石だね、岩ちゃん」
「当たり前だ。勝負事はなんであれ勝つ」
「名字ちゃんさ、女の子があの顔はアウトでしょ」
「いや、松川？私か弱い女の子よ？ゴリラについてった事自体褒めて欲しいわ」
「おい、誰がゴリラだ」
頭をゴリラに鷲掴みされ痛がっていると花巻が「お題は何だった訳？」と聞いてくるもんで紙を見せたら、岩泉くん顔が真っ赤になっちゃいましたわ。
「“結婚したいと思う相手”って何でこれで岩ちゃんな訳！？」
「いや、逆に岩泉以外誰がいる訳？」
「いやいや、こーんなカッコいい及川さんが居るのに？」
「……及川、それイタイって何時も言ってんじゃん」
「おいおい、及川は置いといて俺と松川は悩んでもいいんじゃねぇの？」
えー、と嫌そうな顔をする私を不思議にみてくる３人。ちなみに岩泉はまだ顔が赤くてこっちを見てくれない。
「だって及川は面倒くさいし、花巻は兄弟って感じだし、松川はお父さんじゃん！岩泉一択。」
私の言葉に納得してない様子の３人。
いや、本音だから仕方がない。他学年からすれば及川はイケメンで爽やか、花巻は気さくで喋りやすく、松川は色気がヤバイらしい。先輩補正入ってるだろ、絶対。
実際及川はウザい奴だし、花巻は子供っぽい、松川はただのおっさんだ。
ただ、唯一岩泉の漢らしい！ってのは私も同感だ。それは同じ学年の男女問わず皆が思っている事だ。
「名前ちゃん的に仕方がなく岩ちゃんって事だよね？」
「いや、岩泉しか考えられない」
「名字ー、そろそろ口説くのやめてやれ。岩泉顔真っ赤で凄い事になってる」
花巻の言葉に岩泉の顔を見てみると、さっきよりも赤くなっている。しかも可愛らしく耳まで真っ赤。うん、可愛いなおい。
「岩泉くん照れてんの？え？可愛いな、岩泉くん」
ニヤニヤしながら岩泉に言うと本日２度目の鷲掴み。私の頭大丈夫？相手ゴリラよ、ゴリラ。
てかね、本音を言うとそろそろ周りの目も気になるのよ。特に及川のファンはタチが悪そうなのよ。只の偏見だけど。
いや、結構怖い顔して見てくるから本当にヤバいのかも知れない。さっさとこの場から立ち去るのがいいな。私の身を守るとするなら。
「ま、岩泉ありがとうね！岩泉のおかげで１位取れたわ！今度何か奢るね」
その場をダッシュで去ろうとするがゴリラに必死に付いて行ったおかげか、普段の運動不足のせいか足がもつれる。
やば、こけるっ！
受け身を取ろうとした瞬間、腕を引っ張られポスッと誰かの胸元へ引き寄せられた。顔を上げるとさっきまで真っ赤になってたはずの岩泉が、いつものキリッとした表情でこちらを見ていた。
「大丈夫か？」
「……」
「名字？」
「岩ちゃん大胆だねー」
「やるなー岩泉。」
「全校生徒の前で何いちゃついてんだよ」
「待って、岩泉イケメン過ぎるでしょ。お嫁さんにして」
私達のからかいに我に戻ったのか、また顔を真っ赤にしてどこかにいってしまった。
「名字がからかうから岩泉怒ったじゃん」
「花巻が一番楽しそうだったけどね？」
「そんな事ないでしょ」
「そんな事あるのよ。てかあんた達と喋ってると首が痛くなるから、そろそろ戻るわ」
はいよー、と気の抜けた３人の返事を聞く前にその場を早歩きで進む。
岩泉思いの外、男の体してたー！！！！
自分でも分かる！絶対今顔が赤い！！動揺を悟られる前になんとか自分のクラスに戻ったら、先に戻っていた岩泉と目が合った。思わずベーっと舌を出してそっぽを向いたら、それぞれのクラスに戻る為こっちに向かって歩いていた３人にニマーと嫌な笑みで見られた。
あいつ等絶対からかう気だろ！あの３人にからかわれるのはめんどくさい！非常にめんどくさい！
とりあえず友人に変に絡みまくって話しかけられないように過ごした。
そのかわり友人には最後の方「なんで今日の名前、そんなにテンション高いの？」って引き気味に言われた。
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