単純な自分が悔しい
「ほんまめんどい奴やな、自分」
彼氏であるはずの侑からの言葉に、我慢していた涙が溢れる。
久々のデートで侑が好きそうな服装、髪型、メイクって何日も前から考えてこの日を待ち望んだはずなのに。
「はあ?久々のデートなんにファンから何回も話しかけられて中断される気にもなってや」
「んなもん知るか。向こうが勝手に話しかけてくるんやでしゃーないやろ」
「そうやけどちゃうやん!!!」
「何がちゃうんや、ハッキリ言えや」
侑の大きな声に言葉が詰まる。
私だって久々のデートでこんなしょうもない喧嘩したくない。けど久々だからこそ私だけを見て欲しい。
「もういい。侑のアホ」
「それはこっちのセリフじゃ」
一緒にいるのが苦しくなって、この重い空気にも耐えられず歩き出す。
追いかけてくれるかな?って期待していたが全くで、それが余計悲しい気持ちにさせる。
どれだけ歩いたか分からない。
気がつくと街の入り組んだ所に来てしまって軽く迷子になってしまった。
まあ、今の時代スマホのお陰で迷子になっても関係ないけど。マップアプリを開き目印になるような物をマップで探していると、肩に何かが当たった。
「お姉ちゃん痛ったいわあ、どうしてくれるん?」
「こいつ見た目の割に華奢やもんで、介護したってくれへん?」
ただでさえ侑と喧嘩してムシャクシャしているのに、いつの時代の絡み方なんやって言いたくなるニヤニヤしたお兄さん達に絡まれてしまった。
「はあ?知らんわそんなん。女に当たって痛がるって鍛え方足りやんのとちゃう?」
私の言葉にさっきまでのニヤニヤとした表情が、顔を真っ赤にして怒りをあらわにしている。
ああ、これはやらかしたな、と思った時にはもう遅くて腕を掴まれた。もう1人のお兄さんはご丁寧に背後に回って逃げれないようにしてくれてる。
「あんま調子乗ってんなよ」
「今他の奴にも連絡して車呼ぶか」
これが可愛げのある女の子なら怖がるんだろうな。
てか、少女漫画だったらここで彼氏が助けに来たりして「俺の女に手ぇ出すな」とかカッコいい事言うんだろうな。
まあ、うちのアホは当てにならんけどなっ!!
「ええ加減きっしょい手ぇ離せっ!」
腕を掴んでいたお兄さんの手首を掴み、反対方向へ曲げる。痛がり膝をつくお兄さんの顔面に膝蹴り1発。
後ろにいたお兄さんは呆然としている。スキだらけで有難い。足を思いっきり踏み付け、全力で顎目掛けて拳を喰らわせた。
「あー、スッキリ…!!!」
倒れ込むお兄さん達を背景にガッツポーズをしていると、クスクスと笑いを堪える声が聞こえた。
声の主が誰かなんて検討がつく。声をする方を見ると手で口を押さえて笑いを堪える侑の姿。
「…見てたんなら助けてや」
「いやいや名前に助けなんていらんやろ。逆にお兄さん達のがいるやろ」
倒れてるお兄さんを横目に呑気にそんな事を言う侑を無視して歩き出すと、さっきと違い追いかけてくる。
「名前〜腹減った」
「知らん」
さっきの態度と違いベタベタとくっつき甘えてくる。機嫌を取りたいのか、明らかにさっきと違う態度に腹が立つ。こっちはまだモヤモヤしているのに平然とよく話しかけるよな。
まあ、気紛れなのはいつもの事だ。
そんな事気にしてても無駄なのは分かってる。分かってるけど、どうしても久々のデート邪魔されるだけでも腹が立つのにファンに話しかけられて満更でもない侑にも腹が立つ。
あー、思い出したらまた腹が立ってきた。
「名前ちゃーん、いつまで怒ってんの?」
「別に怒ってへん」
「サラッと嘘付いてるやん」
「ついてない」
侑を無視してその場を去ろうとしたら、手首を掴まれた。
「名前」
侑は本当ずるい。そして私は単純だ。
ちょっと侑が真剣な声を出しただけで、さっきの事を許してしまうから。
「悪かったって。許してくれ」
「許さん。私は気分が悪かった」
「好きな女がヤキモチ妬いてんの見て、ええ気がするのが男ってもんやろ」
「…アホな男やけどな、」
「俺の為にいつもより気合い入れてくれたんやろ?いつもより何倍も可愛いなあ、」
ちょっとふざけた感じで言う侑のお腹に軽くグーパンを入れると、ワザと痛がるフリをする侑。
「気持ちがこもってない」
侑も気付いているのは分かっている。
私がもうそんなに怒ってない事に。適当であってもちゃんと返事をしているから。
「可愛い。ただ、慣れやん靴履いてる時は助け求めぇや。」
本当侑はずるい。
優しい顔で笑ってこんな事言われたら、不覚にもドキッとしてしまう。
「何か甘いもの食べたい」
「ほいほい。治にその辺の事は聞いてあるから任せとけ」
私の歩幅に合わせて歩く侑の手を思いっきり握ると、嬉しそうな顔をしながら「馬鹿力やな」って握り返してくれた。
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